それから、数週間が経過した。
ひまわりと風間くんは、清い交際を続けているようだ。
それは兄としては微笑ましいことではあるが、

極度のお母さんっ子である風間くんが、

ひまわりとお母さんの板挟みにならないかが少しだけ不安だったりする。
しかしまあ、ひまわりのことだ。

持ち前のど根性スキルと負けん気で、難なく色々やってみせるだろう。

今日のごはんはハンバーグにしようと思う。
我が家のハンバーグは、中にチーズを入れる。

ハンバーグを開けた時にトロッと出てくるチーズはひまわりが絶叫する程美味なのだ。

「……ん?」

買い物の帰り道、ふと曲がり角にいる不審な人物を発見した。
周りを気にしながら、曲がり角の先をチラチラと覗いているではないか。

完璧に、誰が何と言おうと不審者だ。
オラが携帯を手に持ち、ダイヤル110番を押下しようとした直前、

その人物に見覚えがあることに気付いた。

(あれは……)

ゆるりと近付き、声をかけてみる。

「――まさおくん?」

「――ィヒイイィイイッ!?」

あれだけ周りを気にしていたのに、背後に近付くオラに全く気付かなかったのだろうか。
付近に響き渡るほど、まさおくんは絶叫した。
振り向いたまさおくんは、オラの顔を見て胸を撫で下ろす。

「……なんだ、しんちゃんか……もう、脅かさないでよ……」

「いやいや、驚いたのはこっちの方だぞ。ていうか、何してるの?」

その問いに、まさおくんは少しだけ躊躇した。そして、曲がり角の先を顎で示す。

「……あれだよ」

「あれ?」

まさおくんに指示されるがまま、オラはその方向を注視した。

「……あれは……ねねちゃん?」

その先にいたのは、ねねちゃんだった。そして彼女の隣には、見覚えのないイケメンが。
二人は、談笑しながら歩いていた。

「……まさおくん。これって……」

「………」

まさおくんの顔は、この世の終わりのように沈んでいた。




410 :名無しさん@おーぷん:2014/08/19(火)23:30:08 ID:iaiesuhuD
あっ

414 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/19(火)23:42:51 ID:d3UyLBp9k
オラとまさおくんは、近くの喫茶店に移動していた。
まさおくんは、テーブル上に項垂れていた。

「……まさおくん、大丈夫?」

「うん……なんとか……」

よほどショックだったのだろうか。声に全く生気を感じない。
魂だけ、上空3000mまで旅立ってるようだった。

「……しかし驚いたな。ねねちゃんが、あんな男の人と歩いていたなんて……」

その男性は、男のオラが見てもイケメンだった。
少し色黒ではあったが、黒色単髪の爽やかフェイス。

笑顔の中にはキラリと白い歯が光る。

高身長で足も長く、スタイルもいい。

痩せているが、貧相な体ではない。いわゆる、細マッチョと呼ばれるものになるだろう。

まさに芸能人も真っ青なくらいのイケメンには驚いたが、

それ以上に、ねねちゃんが二人で歩いていること自体に凄まじい衝撃があった。

二人の様子を思い出していたオラに、項垂れたまま、まさおくんが言い始めた。

「……あの人、ねねちゃんの仕事場の保育士さんなんだ……」

「ねねちゃんの職場って……フタバ幼稚園?」

「うん……。前に、見たことがある……」

「保育士さんねぇ……」

あれだけのイケメンの保育士なら、

保護者(ほぼ母親限定)からは、絶大な人気を誇ってるだろう。

「……あの二人、いつもああやって二人で帰ってるんだよ……

仲良く、話しながらね……へへへ……」

「そ、そうなんだ……」

どうでもいいけど、まさおくん、顔がミイラみたいになってるよ。

415 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/19(火)23:52:58 ID:d3UyLBp9k
「で、でも、まだ付き合ってるって決まったわけじゃないし……」

「――当たり前だよ!付き合ってなんかいるもんか!!」

突如、まさおくんはテーブルをバンと叩き立ち上がった。

「しんちゃんも見たでしょ!?あんだけイケメンなんだ!絶対に、何か狙いがあるんだよ!
あんなイケメンが、ねねちゃんを相手にするはずなんてないし!!」

まさおくんは、見ていて清々しいほど、はっきりと断言したっ!!

(………おい)

「きっと、ねねちゃんの気持ちを弄んでるんだよ!!許せない!!絶対に許せない!!
……僕が、ねねちゃんを助けるんだ!!!」

まさおくんはさっきまでの屍のような雰囲気を一変させていた。
そこにいるのは、まさに愛の戦士だった。背後に燃え盛る炎が見える。

……言ってることは滅茶苦茶だが。

「……ていうかまさおくん。まさおくんって、ねねちゃんが好きなんだね……」

「当たり前だよ!!!」

またもや断言された。

「ねねちゃんは、ずっと僕と遊んで来たんだ!!

それをポッと出の腹黒野郎に、盗られてたまるかってんだ!!!」

(まさおくん、キャラ変わってるよ。あと、言ってることやっぱり無茶苦茶……)

「こうしちゃいられない!!あの男の本性を……突き止めてやる!!

そして、ねねちゃんに突き付けてやるんだ!!」

そしてまさおくんは喫茶店を飛び出していった!!

「あ!ちょっと!まさおくん!!」

オラの呼び掛けに一切答えることなく、愛の戦士は出ていった。

「……会計、忘れてるよ……」

……オラに、伝票を突き付けて……

416 :名無しさん@おーぷん:2014/08/19(火)23:59:39 ID:MABNAJ0SC
まさおは大人になってもまさおだなww




419 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/20(水)00:06:24 ID:LnvfevvG2
仕方なくまさおくんの分まで清算したオラは、家に帰っていた。
まあ、後日請求すればいいだろう。

それはそうと、まさおくんはすっかりねねちゃんにゾッコンのようだ。
もしかしたら、ねねちゃんを彼に奪われようとしたことで、自分の中の気持ちにはっきりと気付いたのかもしれない。

失われかけた寸前、もしくは失われた後に、初めてその大切さを知る……人生においては、往々にしてあり得ることだろう。

それにしても、もし仮にライバル(?)だとするなら、まさおくんには悪いが、かなり分が悪い気がする。
何せ、相手は超絶イケメンだし。

(………居酒屋、予約しておくかな……)

オラは頭の中で、まさおくんを元気づける会の計画を立て始めていた。

――と、その時。

ドン

曲がり角を曲がったところで、オラは人とぶつかった。

「うわっと……す、すみません。考え事をしていたもので……」

「い、いえ、こちらこそすみません……ん?」

「……ん?」

オラは、その人物を見て驚いた。
そこにいたのは、例のイケメンだった。

しかしながら、向こうも向こうでオラを凝視していた。
何度見てもイケメンだなぁなんて思いながら、とりあえず聞いてみた。

「ええと……何か……?」

するとイケメンは、意外なことを口にした。

「……あの……失礼ですが、もしかして、野原しんのすけさんですか?」

「……へ?」

420 :名無しさん@おーぷん:2014/08/20(水)00:10:46 ID:SmPdMrNLJ

421 :名無しさん@おーぷん:2014/08/20(水)00:12:36 ID:xkosuuwPd

422 :◆P3N/RKK/Ymw8:2014/08/20(水)00:15:14 ID:Q5Wg0OW5p
えっ

423 :名無しさん@おーぷん:2014/08/20(水)00:16:42 ID:FQnFOg3Pc
もしやばら組の・・・

426 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/20(水)00:27:19 ID:LnvfevvG2
「……そうだったんですか。ねねちゃんから……」

「はい。しんのすけくん達のことは、桜田先生からよく聞いています」

オラとイケメンは、行く方向が同じだったため、二人ならんで歩いていた。
なんでも、ねねちゃんは、よくオラ達の話をするらしい。
それにしても、よくオラって分かったな……イケメンは、第六感までも凄まじいのかもしれない。初対面でくん呼ばわりするあたり、少し馴れ馴れしいが。

「……そう言えば、保育士さんなんですよね?」

「ええ。一応……」

イケメンは、照れながら頭をかいていた。どうでもいいが、いちいちイケメンで困る。

「いやいや、幼稚園ではさぞや人気があるでしょう」

「そうでもないですよ。普通くらいです。それに、僕なんかより、桜田先生の方がよっぽど人気がありますよ」

「……マジですか?」

「マジです。……桜田先生は、本当にパワフルですからね。こういう言い方をすれば語弊があるかもしれませんが、子供のような人なんです」

「へえ……というと?」

「子供が笑えば一緒に笑って、子供がケンカすれば一緒になって暴れて、子供が泣けば、今にも泣き出しそうな顔をしながらあやす……桜田先生は、子供達と同じ目線に立てる人なんですよ。
おまけに、少し変わった親が無理難題な容貌を言ってきても、断固としてそれに応じたりしませんし。あくまでも、子供達を基準に考えているんです。
その姿勢が、保護者、同業者、子供達から、高い評価を得てるんですよ。
……それは、見ていて羨ましいくらいです」

「そうなんですか……」

「ああ、誤解しないでくださいね?僕が羨ましいと言ったのは、僕にはない色々な魅力を、彼女が持っているからなんです。
……彼女はね、僕の憧れなんですよ。僕もああやって、自然体で子供達と向き合いたいんです」

「……あなたなら、きっとできますよ」

「そう言ってくれると嬉しいですね」

イケメンは、嬉しそうにはにかんでいた。

(……まさおくん。どうやらキミは、身も心も完全に負けているようだよ……)

心を色で表現するなら、この人は間違いなく白だ。そしてまさおくんは、どこまでも深い深い黒だろう。

(……明日、店を予約するか……)

その時点で、まさおくんを元気づける会の開催は、決定した。

427 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/20(水)00:36:06 ID:LnvfevvG2
「――あ、僕はこっちなので……」

三叉路に差し掛かったところで、イケメンはオラとは別の方向を指さした。

「わかりました。お仕事、お疲れ様です」

「いえ、しんのすけくんこそ。また今度、園に遊びに来てくださいね。桜田先生も、きっと喜びますよ」

「そうさせてもらいます。……あ、そう言えば、まだお名前を……」

「……え?」

イケメンは、驚いたように立ち止まった。

「……ええと……」

「……やだなあ、しんのすけくん。僕ですよ……」

「……ぼ、僕?」

「忘れちゃったんですか?――バラ組の、河村やすおです」

「河村やすお?……って、もしかして……チーター!!??」

「あ、そのあだ名、懐かしいですね」

イケメン改め、チーターはクスクスと笑う。だからなぜ一つ一つの動作が、そんなにイケメンなのか……

(チーターって……えええええ!!??別人過ぎるだろ!!!!)

あまりの衝撃にフリーズしていると、チーターは手を振って帰り始めた。

「では、僕はこれで……」

「あ……はあ……」

衝撃から依然として解放されなかったオラは、力なく手を振り返すしかなかった。

……時の流れは、チーターをイケメンにメガ進化させたようだった……

429 :名無しさん@おーぷん:2014/08/20(水)00:40:35 ID:GjO4HgEXg
メガ進化ワロタw

432 :名無しさん@おーぷん:2014/08/20(水)00:53:02 ID:QwKoet43m
これが
434 :名無しさん@おーぷん:2014/08/20(水)00:55:38 ID:QwKoet43m
こうなったのか
435 :名無しさん@おーぷん:2014/08/20(水)00:59:43 ID:QfyvNOF61
>> 434
変わりすぎwww




443 :名無しさん@おーぷん:2014/08/20(水)10:43:03 ID:kFre2Vsgm
「――しんちゃん聞いてよ!!」

それから数日後の夜、まさおくんは血相変えて家に飛び込んできた。
靴を乱雑に脱ぎ捨てたまさおくんは、そのまま居間にいたオラの元へ駆け寄る。

「あ、あの男のことを調べたんだけど……!!」

調べた結果……そんなもの、分かりきっていた。

「――チーターだったんでしょ?」

「そうそう!あの男、実はチーター……!!……って、何で知ってるの?」

まさおくんは、目を丸くしていた。

「この前、たまたま会ったんだよ。ねねちゃん、オラ達のこと話してたみたいだよ?」

「え!?ねねちゃんが、僕のことを!?」

(オラ達って言ったのに。ずいぶんポジティブなことで)

「で!?どうだった!?」

「どうって……」

「チーターだよ!話したんでしょ!?」

「ああ、そういうこと。少ししか話してないけど、いい奴だよ、彼」

無駄にイケメンだったけど。

「しんちゃん!騙されてるよ!」

まさおくんは激怒した!

「そんなの、ただの見せかけだよ!フェイクだよ!本性はもっと、黒いはずだよ!」

まさおくんは自信満々に言い放つ。……しかしまあ、相変わらず言ってることは無茶苦茶だ。

どうするか悩んだけど、さすがにそろそろ言うことにした。

「……ねえ、まさおくん。オラは、キミの友達だからさ、だからこそ、敢えて言わせてもらうね」

「……え?な、何を……」

「――いい加減にしなよ、まさおくん」

「――ッ!?」

オラの言葉に、まさおくんは言葉を飲み込んだ。

458 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/20(水)14:55:48 ID:kFre2Vsgm
「……しんちゃん……」

「まさおくん、正直に言うけど、今のキミは見てらんないよ。ねねちゃんが好きなのは分かるし、盗られたくない気持ちも分かる」

「……」

「……でもね、今のキミはあんまりだ。話してもいないのに勝手に全部決めつけて……そんな姿を見て、ねねちゃんがキミに好意を持つと思ってるの?」

「……そ、それは……」

「キミにはキミのいいところがあるんだ。だから、もっと素直にねねちゃんと向き合いなよ。
……今度、オラとフタバ幼稚園に行こうよ」

「……うん。ありがとう、しんちゃん……」

まさおくんは、ようやく落ち着きを取り戻したようだ。
正直、こんなことを言うのは忍びないところもある。だけど、まさおくんのことを知るオラだからこそ、言う必要があった。
でも最後は、まさおくんも分かってくれた。
それだけで、言って良かったと思う。

「……しんちゃんと一緒に、敵情視察だ……」

まさおくんは、ぼそりと呟く。

……分かってくれたんだよね?




468 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/20(水)16:37:03 ID:kFre2Vsgm
それから数日後、オラとまさおくんは、フタバ幼稚園に来ていた。

久々に見る幼稚園は、少しだけ古ぼけて見える。あれから20年以上だし、それもしょうがないのかもしれない。
それに、建物も校庭も、外の遊具も、物凄く小さい。
……それでも、独特の匂いと、踏み締める土の感触は、昔のままだった。

あの頃オラ達は、この幼稚園で毎日を過ごしていた。
絵本を読んで、歌を歌って、絵を描いて、走り回って、笑いあって、時々ケンカして……
ここに立つだけで、まるでモノクロの投影機のように、昔の光景が脳裏に甦っていた。

「……懐かしいね、まさおくん……」

そう呟き、まさおくんを見る。
まさおくんは、まるで威嚇するかのように、キョロキョロと見渡していた。

(……おい)

「……おや?キミ達は……」

ふと、オラ達のもとに、白髪のおじいさんが近寄ってきた。

「……あ、勝手に入ってすみません。オラ……僕達は、ここの卒業生なんです。久々に、遊びに来ました」

当たり障りなく、挨拶をする。
すると老人は、朗らかに笑った。

「……もちろん、覚えていますよ。よく来てくれましたね、しんのすけくん、まさおくん――」

……園長先生は、優しく微笑む。その表情もまた、昔のままだった。

469 :名無しさん@おーぷん:2014/08/20(水)16:58:00 ID:8xD5m7NMp
えんちよぉおおおお

470 :名無しさん@おーぷん:2014/08/20(水)17:01:38 ID:Ca0Lbcusq
くみちょおおおおおおおお

471 :名無しさん@おーぷん:2014/08/20(水)17:20:42 ID:Ezrc4FTKW
あ、地上げ屋だ

472 :名無しさん@おーぷん:2014/08/20(水)17:27:25 ID:xpLH1WH9w
園長が写真のコンクールを目指すけど、しんちゃんが賞を取る話が好きだった

475 :名無しさん@おーぷん:2014/08/20(水)21:54:48 ID:QfyvNOF61
>> 472写真を撮る人って題名だっけ?

476 :名無しさん@おーぷん:2014/08/20(水)22:09:44 ID:xpLH1WH9w
>> 475
撮る人は撮られる人だったような…

478 :名無しさん@おーぷん:2014/08/20(水)22:50:20 ID:QfyvNOF61
>> 476
そうそう、それだ!組長がそんなぁ…って泣いてたやつ

500 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/21(木)15:15:01 ID:KWJkNoSrb
「それにしても懐かしいですねぇ。もう、20年以上になるんですよね」

オラとまさおくんは、教員室に案内された。
室内には誰もいない。遠くからピアノの音と、子供たちの元気な合唱が聞こえていたから、おそらく授業中なのだろう。

「はい。顔を出せず、すみませんでした」

「いえいえ。あなた方が元気であれば、それで私は満足なんですよ」

園長先生はニコニコとしていた。
口ではそう言っていても、やはりこうしてオラ達が顔を出したのが嬉しいんだろう。

それにしても、園長先生の雰囲気はすっかり変わっていた。
昔の極道丸出しのような容貌はない。太ったことも原因かもしれない。とにかく、朗らかで、とても優しそうな印象を受ける。
園長先生の性格を考えるなら、今の姿が一番しっくりくる気がする。

「……ところで、突然園を訪れて、何か御用があるんですか?」

「あ、ああ……実は、ここで働いているねねちゃんとチーターが働いてるって聞いたんで、懐かしくなって……」

チーターたちの様子を見に来たってのは、一応黙っておこう。

「あ、なるほど。……それなら、授業風景、見てみますか?」

「――いいんですか!?」

オラより先に、まさおくんが反応を示した。
それまで黙っていたのに……なんとも、現金な奴だ。

504 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/21(木)15:51:32 ID:KWJkNoSrb
園内をオラ達は歩く。
あれだけ広かった建物は、時々屈まないといけないところがあった。こうやって大人になって見てみると、やはりどこか小さい。
それでも、この空気に触れるだけで、どこか心が躍る。

「……ここが、桜田先生のクラスですよ」

「ここが……」

オラとまさおくんは、窓から中を覗きこむ。

「――はーい!じゃあ次は、紙芝居の時間ですよー!」

「ええ!?もっと歌いたい!!」

「私もー!」

「僕もー!」

「ごめんねぇ。今日はもうお歌は終わりなの。また明日ね」

「えええ…」

「ぶーぶー!」

「ゴチャゴチャ言ってないで紙芝居始めますよー」

子供たちの文句を押し切り、ねねちゃんは強引に紙芝居を開始していた。

「……なんか、ねねちゃん、すごくパワフルですね」

「まあ……ね……。口は少々悪いですが、それでも園児からは慕われていますよ」

「……ねねちゃん……カッコいい……」

522 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/22(金)00:57:43 ID:AKiC71lrI
続いてオラ達が案内されたのは――

「ここが、河村先生の教室です」

「河村……チーターの……」

オラとまさおくんは、教室の中を覗き込んだ。

「河村先生!絵ができたよ!」

「お!すごく上手だね!先生すごく驚いちゃったよ!」

「河村先生!手伝って!」

「手伝うのはいいけど、最後は自分でしなきゃだめだよ?」

「河村先生!僕も!」

子供たちは、しきりにチーターを呼んでいた。そこにいるのは、間違いなく、生徒から慕われた優しい先生の姿だった。

「河村先生も、物凄く子供に懐かれていますよ。やさしくて、かっこよくて……人気の的なんです」

園長先生は、満足そうにそう呟く。

その姿で、ひとつ確信したことがあった。
チーターは、心に黒い一面があったり、裏の顔があったりしない。ありのままの姿を見せている。
子供は敏感だ。少しでも隠していることがあったり、得たいの知れない何かを持ってたりするなら、絶対にああして笑顔で近づくことはない。
ありのままの姿を見せているからこそ、子供たちは安心して、彼のもとに集まるんだ。

「……チーターは、いい先生ですね……」

「……ええ。本当に立派になりました。私は、彼の園長であったことを誇りに思います」

俺の言葉に、園長先生は幸せそうに返事を返した。

「……」

……一方まさおくんは、相変わらずこの世の終わりのような顔をしていた。
チーターの、あまりの眩しい笑顔に、圧倒されているように思えた。

(……哀れ、まさおくん、か……)

525 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/22(金)01:07:29 ID:AKiC71lrI
「――いっくよー!」

チーターは、子供たちに向けてサッカーボールを蹴る。きれいな放物線を描いたボールは、ワンバウンドして子供たちの方向に飛んでいった。
子供たちははしゃぎならボールを追う。実に、微笑ましい光景だった。

授業が終わったあと、幼稚園の校庭で、子供たちは先生たちと遊んでいた。
そしてそこには、普段はいない者の姿も……

「――いっくよー!」

まさおくんは、子供たちに向けてサッカーボールを蹴る。低い弾道のボールは、まったく別のあさっての方向に飛んでいった。

「もう!まさおお兄ちゃん!ちゃんと蹴ってよね!」

「うぅ……ご、ごめん……!」

まさおくんは半泣きになりながら、茂みの中に入り込んだボールを回収していた。

オラとまさおくんもまた、子供たちと遊んでいた。
子供と遊ぶのは、正直にいえば疲れる。彼らは疲れを知らず、全力で向かってきていた。
でも、その屈託のない笑顔と声は、自然と心を和ませる。悪くない。

「まさおくん、ちっとも変わっていないわね」

その光景を見ていたオラに、ねねちゃんは近づき話しかけてきた。

「……うん。そうだね……」

オラも微笑を返し、少しの間、校庭で遊ぶ子供たちと、子供と戯れるチーター、子供に翻弄されるまさおくんを見ていた。

526 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)01:11:57 ID:m9KSvPEbf
正夫ワロタw

527 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)01:15:01 ID:dP6n4vUHB
さーてこのあとネネちゃんとどういう展開になるのかwktk




528 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/22(金)01:25:13 ID:AKiC71lrI
「……なんだか、不思議じゃない?」

子供たちを見ていたねねちゃんは、ふと呟いた。

「不思議?」

「うん。――だって、今から20年くらい前には、あそこを走ってたのは、私たちだったのよ?」

「……ああ、そういうことね。そう考えたら、確かに不思議な感じがする」

「でしょ?……子供のころは、何も考えずにああやって走り回って……世の中なんてほとんど知らないのに、まるで全部分かってたかのようにリアルおままごとなんてして……。
――ほんと、子供だったわ……」

「……ああ、実はね、オラ達、ねねちゃんのリアルおままごとが少し苦手だったんだよ?」

「そうなの?」

「うん。だって、やっていて重かったし、もっと楽しいことをしたかったしね」

「言ってくれればよかったのに……」

「言えるわけないよ。ねねちゃん、怒ってただろうし……」

「……そんなに、私って怖かった?」

「うん。すっごく」

「はっきり言うなぁ……」

ねねちゃんは、ばつが悪そうに苦笑いをした。

「ハハハ…!ごめんごめん。――ただ、オラ達はずっと一緒だったね。リアルおままごとにしても、かすかべ防衛隊にしても……」

「かすかべ防衛隊かぁ……。懐かしいね」

「ケンカもしてたけど、あの毎日があったからこそ、オラ達はこうして今でも繋がってる。それって、すごく幸せなことだって思うんだ。
時間は色んなものを変えてしまう。建物だって古くなるし、オラ達にもそれぞれに立場や環境があって、昔みたいに集まることも難しいし。
――でも、それでも変わらないものもある。それが、今のオラ達なんじゃないかな……」

「……しんちゃん、ホントに変わったね。なんていうか、すごく大人になった感じ。実際大人だけど。
とても、昔お尻を出して走り回ってたようには見えないわね」

ねねちゃんは、少し意地悪そうにオラを見た。

「……ねねちゃん。それは言わないで……」

529 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)01:41:09 ID:ZGNzfxb1g
(0゜・∀・)ワクワクテカテカ

530 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)01:53:49 ID:ATJ6UgLQq
けつだけ星人はしんのすけの黒歴史かw

531 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)02:09:40 ID:AKiC71lrI
……ふと、思いついた。
今なら、ねねちゃんに色々聞いても大丈夫だろう。

「……そういえば、ねねちゃん」

「ん?なぁに?」

「ええと……」

なんて聞くか、少し悩んだ。ダイレクトに聞いてもいいが、違ったときに気まずくなりそうだし。
少しだけ自分会議をした結果、遠まわしに聞いてみることにした。

「今さ、誰かと付き合ってるの?」

「……え?」

「いやほら、ねねちゃんさ、ここにいたら出会いとかも多そうだし。もしいるなら、全力で応援したいし」

「……うん……」

ねねちゃんは、少しだけ黙り込んだ。
やはり言いづらいようだ。でも、まさおくんはあんな調子だし、ここはオラが頑張ってやらないと……

少し悩んだねねちゃんは、徐に口を開いた。

「……付き合ってはいないけど、気になってる人はいる……かな?」

そう話す彼女の頬は、桃色に染まっていた。

532 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)02:11:01 ID:dP6n4vUHB
さーて・・・どっちか・・・

533 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)02:21:16 ID:AKiC71lrI
「へえ……それって、どんな人?」

「ええ?言わなきゃだめ?」

「言ってくれないと、サポートも出来ないって。名前は言いづらいだろうから、どんな人くらいかは言ってほしいな」

「う、うん……」

彼女は頬を染めたまま、少し俯いて話し始めた。

「昔はね、何も思わなかったんだ。でも、大人になって再開して、彼、すごく立派になっててね。私、すごく驚いちゃった。それで、なんとなく、気になったって言うか……」

「……その人って、かっこいい?」

「どうかな。私、そういうの疎いから他の人がなんて言うか分からないけど。私は、かっこいいって思うけど」

「そうなんだ。……想いを伝えたりとかは?」

「む、無理だよぉ……。恥ずかしいし、それに、もしだめだったら立ち直れないし……」

「そっか……」

「うん。そうそう。……それにね、私は、今のままでいいの。今はお互い立場もあるけど、とりとめのない話をして、お互い励ましあって……。
確かに微妙な距離感だけど、彼と繋がってるし。逃げてるように見えるかもしれないけど、今は、これでいいの……」

「……わかった。もしオラに手伝えることがあったら、なんでも言ってよ」

「うん。ありがと」

そういうと、彼女は再び子供たちに視線を送った。
その表情は、とても安らいでいた。話す中で、彼のことを思い出しているのかもしれない。とても、幸せそうだった。

……だが、それは少なくとも、まさおくんじゃないだろう。名前は聞けなかったけど、それは断言できる。

オラは、子供に追い掛け回されるまさおくんを見て、一人静かに合掌するのだった。

535 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)02:23:13 ID:ZGNzfxb1g
ねねちゃんが女の子してる…

537 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)02:27:45 ID:dP6n4vUHB
次の展開がたのしみだ

538 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/22(金)02:38:51 ID:AKiC71lrI
幼稚園が終わった後、オラとまさおくんとねねちゃん、それと、チーターの4人は、一緒に並んで帰っていた。

「……もう、ひどい目に遭ったよ……」

まさおくんは、ぼろぼろに疲れ果てながら、そうぼやく。
まさおくんは、まさに子供たちのおもちゃにされていた。しかしまあ、ポジティブに考えるなら、子供に懐かれたということかもしれない。それはそれで、きっといいことだぞ、まさおくん。

「しんのすけくん、まさおくん。今日は来てくれてありがとう。子供たちも喜んでいたよ」

チーターは笑顔で謝辞を述べる。
キラリと光る白い歯。この男、どこまでもイケメン。

「ほんとほんと。今後も、定期的に来てほしいくらいね」

「勘弁してよ……あ、そろそろ先生のとこに行かなきゃ」

まさおくんは腕時計を見た後、オラ達のもとから走り始めた。

「先生って……アシスタントの仕事?」

「うん!今から最後の作業なんだ!――じゃあね!」

そう言って、まさおくんは駆け出す。
そんな彼に、ねねちゃんは声をかけた。

「まさおくん!がんばってね!それと!漫画家デビュー、出来るといいね!」

ねねちゃんの声援を受けたまさおくんは、足を止め振り返る。そしてキメ顔を見せ、親指を立てた。

「……任せといてよ。ねねちゃんのために……頑張るよ!!」

そして彼は、さっきまでの2倍の速度で、走り去っていった。

……そんな彼の脳裏には、敵情視察などというフレーズは、すっかり抜け落ちているのだろう。
オラの情報収集は、無駄に終わったのかもしれない。別にいいけど。

539 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)02:41:56 ID:dP6n4vUHB
ええわぁ
楽しみだ

540 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)02:45:06 ID:I1e6pm3rW
いいぞいいぞ。




541 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/22(金)02:47:35 ID:AKiC71lrI
それから三人で雑談をしながら歩いていると、ふいにチーターが何かを思い出した。

「――あ、そうそう。しんのすけくんに、渡そうと思ってたものがあるんだ……」

「え?オラに?」

「うん。ちょっと待って……」

そう言って、彼は手持ちのバッグをごそごそとあさぐる。そして、一枚の手紙を差し出してきた。

「……はい、これ」

「……これって……」

オラは、思わず立ち止まった。
彼が渡してきたもの。それは……

「……これはまさか……結婚式の招待状!?」

「うん。実はね、僕、今度結婚するんだ」

チーターの口から、衝撃的な発言が飛び出した!!

「け、結婚!?だ、誰と!?」

「大学時代から付き合っていた彼女だよ。しんのすけくんにも、きて欲しいんだ。本当はまさおくんにも渡そうと思ったんだけど……渡す前に帰っちゃったし……」

チーターは困ったように笑みを浮かべた。やはり無駄にイケメン……

(――って、そんなことはどうでもいい!!)

「返事待ってるね。……じゃあ、僕はこっちだから。しんのすけくん、今日は本当にありがとう」

そう言い、爽やかな笑顔を見せたチーターは、手を振りながら帰っていった。

542 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)02:48:56 ID:dP6n4vUHB
ふぁあああああああああああああああ!?

543 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)02:49:17 ID:I1e6pm3rW
えっ!?

えええええええええええ!?

544 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)02:50:23 ID:ATJ6UgLQq
イケメェェェン!!!

546 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)02:55:51 ID:6sFFxnQAp
すごい展開だな
さすがに予想できなかった

547 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/22(金)03:05:01 ID:AKiC71lrI
「……チーター、結婚するんだ……」

オラはしばらく、体に走った衝撃に身動きが取れなくなっていた。

「河村先生の奥さんってね、すごく美人なんだよ?まさに、お似合いのカップルって感じなの」

ねねちゃんは、笑顔でそう話す。

(まあ、あれだけイケメンなら、そうだろうけど……って、今はそうじゃない!!)

チーターは結婚する。それをねねちゃんは知っているようだ。
そして彼女は、むしろ祝福しているように見える。

……まさかねねちゃん、今の関係を崩したくないってのは、こういう事情があったからなのか?
だとするなら、彼女はどれだけ茨の道を進むのだろうか……

548 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/22(金)03:06:05 ID:AKiC71lrI
感傷に耽っていると、ふと、後ろから声がかかった。

「――しんちゃん。ねねちゃん」

どこかで聞いたことのある、緩い声。その声の主は……
後ろを振り返ると、そこにはぼーちゃんがいた。

「あれ?ぼーちゃん、今帰り?」

「うん。二人は、何してるの?」

「しんちゃん、今日、フタバ幼稚園に遊びに来てたのよ。……ねえぼーちゃん、せっかくだし、三人で帰りましょう」

「うん。帰ろう」

ぼーちゃんは、笑顔で返事を返す。

そしてぼーちゃんとねねちゃんは、オラの前を歩き始めた。
楽しそうに会話をする二人。
ぼーちゃんはさることながら、ねねちゃんの笑顔には、どこか見覚えがあった。

――幸せそうに、朗らかに笑うその笑顔……それは、確かさっき幼稚園で見た……

(………………まさか……)

……オラは、いつから錯覚していたのだろうか。

ねねちゃんが気になっているのが、まさおくんかチーターである、と……

(………まさか……ねねちゃんが言ってた、“気になる人”って………)

オラの中で、バラバラのパズルのピースが、一つになった。
そんなオラの前を、ねねちゃんとぼーちゃんは並んで歩く。とても、幸せそうに……

……さすがのオラも、まさおくんに同情するしかなかった。

確実に彼は今、かすかべ一の、不幸な青年であるのだから……

鬼の目にも涙、か……

コチラからご覧ください↓




①【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。

②【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。

③【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。

④【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。

⑤【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。

⑥【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。

⑧【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。

⑨【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。

⑩【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。

11【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。

最終回12【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。