オラ的まさおくんの悲劇から、1ヶ月ほどが経過した。
まさおくんは、いまだにねねちゃんの本当の気持ちに気づいていないようだ。
そういう言い方だと、実はねねちゃんがまさおくんを好きなように聞こえるが、そういうわけではない。
日本語とは、同じ言い方でも様々な意味合いを持つものだと、一言添えておくことにする。

さて、オラはというと、会社であいちゃんが重役会議に出席している間に、あいちゃんの仕事部屋の掃除をしていた。
もっとも、もともと綺麗な部屋なわけで、掃除といっても、ビッカビカの机をさらに磨き上げるように拭くしかないのだが……

それはそうと、最近あいちゃんの機嫌が悪いことが多々ある。
黒磯さんに強く当たるし、たまにオラにも飛び火している。いったいぜんたい何事だろうか。
会社の経営は順調そのもの。あいちゃんの企画した事業も大当たり連発。
その見事な手腕を発揮させ続ける彼女は、成功とは裏腹に、時折思いつめたような表情をしている。
ボディーガード(ほぼ執事)としては、少しばかり心配なのは、言うまでもないだろう。

570 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/22(金)08:36:54 ID:AKiC71lrI
オラがコーヒーを作っていると、重苦しい音を上げてドアは開かれ、あいちゃんは帰ってきた。

「………」

あいちゃんは、やはり不機嫌な様子だ。
一直線に椅子に向かい、どかりと重い音を鳴らしながら座り込む。

「……はあ」

そして、やはりここでため息を一つ。
このコンボは、最近のあいちゃんの鉄板なのだ。

「……お疲れ様」

そんなあいちゃんに、オラは笑顔でコーヒーを差し出す。

「あ……ありがとうございます。しんのすけさん」

あいちゃんも笑顔でコーヒーを受け取るが、その笑顔は、どこか無理やり作っているようにも見えた。
それを証明するかのように、オラから視線を外すやいなや、あいちゃんは再び、重い表情に戻していた。

どうするか迷ったが、オラは直接聞いてみることにした。

「……あいちゃん、最近疲れてるね……。何かあったの?」

「……少し、思うことがありまして……。いつも気を使わせてしまって、申し訳ありません……」

「いや、それはいいんだけど……何か悩んでいるなら、オラにでも相談してよ。出来る限り力になりたいし」

(本当に力になれるかはなんとも言えないけど……)

「……ありがとうございます、しんのすけさん」

あいちゃんは、再び力ない笑顔をオラに向けた。

何に悩んでいるかは分からない。だけど、オラは彼女のボディーガードであり、友達でもある。
相談してくれるかは分からないけど、もし言ってきた場合は、出来る限り力になろうと決意する。

……そう思った、わずか数日後のことだった……

571 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)08:42:14 ID:aMcjhDzpn
ごく…

572 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)08:43:39 ID:L6eIjY9Nb
何があったんだ




573 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/22(金)08:49:45 ID:AKiC71lrI
「――え!?あいちゃんが行方不明!?」

「はい!送迎係の者が、少し目を離した隙にいなくなってしまったようで……」

会社に出勤したオラに、秘書の女性が慌てながら伝えてきた。
あいちゃんが、どこにいるか分からないという。

「GPSとかであいちゃんの場所は分からないんですか?」

「それが、あい様はGPS機能つきの携帯電話、バッグ、靴等をすべておいて行ってしまっているようで……」

(靴にまで……さすがはあいちゃん……)

などと感心している場合ではない。
いなくなったのは自宅敷地内から。そして、寸前まで送迎の車に乗車していた。
状況から考えるに、誘拐の線は薄いだろう。あいちゃん自らが、どこかへ行った――そう考えるのが、妥当だと思う。

ではいったい、彼女はどこに行ってしまったのか……
手がかりは、今のところない。
酢乙女家の監視体制を熟知している彼女にとって、その目を逃れるのは容易いのかもしれない。

「……とにかく、オラも探してみます」

「は、はい!よろしくお願いします!」

オラは急いで会社を飛び出した。
今のところは誘拐ではない。……だが、超大企業のご令嬢がうろつき回っていては、そういう“目”に変わる可能性だって十分考えられる。

(あいちゃん……どこ行ったんだよ……!)

不安な気持ちを抱えたまま、オラは高層ビルが立ち並ぶ街を走り回った。

576 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/22(金)09:07:21 ID:AKiC71lrI
「はあ……はあ……」

しばらく走り回ったオラの息は、すっかり上がってしまっていた。
行きそうなところを手当たり次第走りまわったが、結局あいちゃんの行方は掴めないままだった。

(もう少し、探す範囲を広げてみるか……)

オラは汗だくのスーツを着替えるべく、いったん家に向かった。

あいちゃんは、いったいどこに行ってしまったのか。そして、どうしていなくなってしまったのだろうか。
最近のあいちゃんの様子は、明らかにおかしかった。
オラに、もっと何か出来ることがあったのではないだろうか……

そんなことを考えながら自宅に戻ったオラは、ネクタイを緩めながら玄関を開ける。
今日は、ひまわりは風間くんと遊びに行っていて、誰もいなかった。
誰もいない家に、オラは一人帰りを伝える。

「……ただいま」

「おかえりなさい。しんのすけさん」

「ああ、ただいま、あいちゃん……」

オラは笑顔を見せる彼女に同じく笑顔を返して、家の奥に向かい…………

………………って

「えええええええええええええ!!??あいちゃん!!??」

誰もいないはずのオラの家には、いるはずのない、あいちゃんの姿があった。

577 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/22(金)09:10:27 ID:AKiC71lrI
オラは慌てて、あいちゃんに詰め寄った。

「まあしんのすけさん、すごい汗……」

「え!?あ、ああ、ちょっと街中を走り回って……って、そうじゃなくてっ!!!
あいちゃん!!こんなとこで何してるの!!??」

「何をしているのか、と言われましても……。あ、そういえば、自宅の鍵を玄関のポストに入れておくのは、少しばかり無用心ですよ?」

「あ、ああ、ごめん………ってそうじゃなくてっ!!!
会社はたいへんなことになってるよ!!??ほら!すぐに一緒に会社に―――!!」

「――しんのすけさん」

「―――ッ!?」

突然、あいちゃんはオラの言葉を遮った。その言葉には、どこか迫力があった。オラは思わず、続きの言葉を飲み込んでしまった。

「……しんのすけさん、確かおっしゃってましたよね?出来るだけ、力になると……」

「……あ、ああ。言ったのは言ったけど……」

するとあいちゃんは、再びオラに笑顔を向けた。

「――でしたら、私と一緒に、駆け落ちをしてくださいませんか?」

「…………へ?」

……あいちゃん、今何か、口走ったような……

確か……駆け落ち、とか……

「……って、えええええええええええええええええ!!!???」

彼女の言葉を理解した後、本日二度目となるオラの叫びは、家中に響き渡るのだった。

579 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)09:18:00 ID:DqN1JMTbn
ほぅ……(о´∀`о)

580 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)09:19:02 ID:Hw8xwQ6We
いい感じ




586 :◆P3N/RKK/Ymw8:2014/08/22(金)11:46:54 ID:FbiSzybYT
すごい展開だな

588 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)12:01:03 ID:jzmJYkcMe
わくわく

589 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/22(金)12:01:55 ID:1Yea9TWM2
「――私、こうして普通の電車に乗るの、初めてです!」

「へ、へえ……」

「少し遅くて揺れてますけど、こうしてゆっくり旅が出来るのも悪くはありませんね!」

「そ、そうだね……」

あいちゃんは、少し興奮気味だった。
オラ達が乗るのは、地方のローカル線……平日だったこともあり、乗客はまばらだ。
ぼやぁっと窓の景色を見ていたが、最初都会だった景色も徐々に建物の数が減っていき、今では長閑な景色が広がっている。
こうして景色が移り変わる様は、もしかしたら人生に通じるものがあるのかもしれない。
そんな柄にもないことを、頭の中に思い浮かべていた。

そんなオラとは違い、あいちゃんはどうやらこのローカル線というものが、よほど新鮮だったようだ。
椅子に座りながらも、必死に首を伸ばして、窓の外を眺めていた。

……なぜオラ達が、こうして電車に揺られているかというと、あいちゃんの頼みだったからだ。

590 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/22(金)12:16:13 ID:1Yea9TWM2
~数時間前~

「――駆け落ち!?ど、どういうこと!?」

オラの家において、あいちゃんに問い詰めた。
しかしあいちゃんは、あくまでも淡々と答える。

「その通りの意味です。私と、どこかへ旅に出ましょう」

「旅って……」

するとあいちゃんは、表情に影を落とした。

「……お願いします、しんのすけさん」

そしてそのまま、深々と頭を下げた。

そう思い立った理由は言わなかった。聞けば答えてくれたかもしれないけど、どうしてだか、聞こうとは思わなかった。
それは、きっと彼女の口から、誰にも促されることなく聞きたかったのかもしれない。
彼女が何を思い、何を感じたのか……それは、オラが容易く聞けることではないのかもしれない。
そう、思った。

だからオラは、あいちゃんを連れて電車に乗った。
……実のところ、黒磯さんには密かに連絡を入れている。警察に届けられたら色々と面倒だろうし。
黒磯さんはすぐにでも迎えに行くと言ったが、オラが断った。
それがあいちゃんの意志であることを告げたら、黒磯さんはそれ以上止めなかった。

そしてただ一言、オラにこう言った。

「――お嬢様を、よろしくお願いします……」

591 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)12:17:21 ID:L6eIjY9Nb
ほう

592 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/22(金)12:33:28 ID:1Yea9TWM2
「――うわあ!しんのすけさん、見てください!海がとっても綺麗です!!」

電車を降りると、目の前には一面の海が広がっていた。
その駅は、海岸沿いにある小さな駅。駅員はいないようで、いわゆる無人駅のようだ。
降りたのはオラ達だけ。……というより、ここまで来ると、電車に乗っているのはオラ達だけだった。
ボロボロのホームにも、オラ達しかいない。
高台にあることから、裾には景色が広がっているが、遠巻きに見ても誰もいない。

……それにしても、駅からの光景は、オラですらも声を漏らしてしまうものだった。
見事に晴れた空と、空の色を写した海は、遠くに見える水平線で交わる。
空気には潮の香りが漂い、遠くから波の音が微かに聞こえていた。

まさに、この絶景を独り占め……もとい、二人占めしている気分だった。

「しんのすけさん!早く早く!」

あいちゃんは、オラを駅の出口へ引っ張っていく。

彼女は、白いワンピースを着ていた。ひまわりの服だ。
もともと肌の白い彼女は、その服がよく似合う。少し大き目の帽子を被っていて、まるで避暑地に来たお嬢様のようだ。実際にお嬢様だけど。

それにしても、こうやって間近で見ると、やはりあいちゃんはかなりの美人だと分かる。
電車に乗っていた時も、彼女はジロジロと見られていた。
電車の中で不釣り合いなほど、彼女だけ別の世界の人間のように思えた。

そんな彼女と二人っきりでいることに、少しだけ違和感を覚える。
それほどまでに、彼女はまるで絵本の中から跳び出して来たかのように、純然とオラの前にいる。

593 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)12:36:28 ID:kQjxtbGx2
wktk

594 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)12:37:38 ID:kQjxtbGx2

こんな感じかな

595 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/22(金)12:43:25 ID:1Yea9TWM2
>> 594

ごめん。こんな感じ
すげえ印象に残ってるんだよね、このイラスト

598 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)12:58:30 ID:zNMbDRjCo
知らない間に駆け落ちまでして!!!ドキがムネムネ!

600 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/22(金)13:16:12 ID:1Yea9TWM2
海岸際に来たオラ達は、砂浜に座って海を眺めていた。
波の音以外は聞こえない。

波音の演奏会をしばらく楽しんだ後、あいちゃんは静かに話し始めた。

「……しんのすけさん、私は、最近自分が分からなくなっているんです」

「……分からない?」

「私は、これまで両親の言う通りの人生を歩んできました。両親の期待に応えるために、必死に頑張って来ました。
……ですが、ふと最近思うんです。しんのすけさん、あなたを見ていると……」

「オラを?」

「はい。あなたは、いつも自然体でいます。それが、とても羨ましく思えてました。飾らない自分のまま、人生を歩くあなたの姿に憧れながらも、私は、嫉妬もしていました。
そう思った時、ふと、思ったんです。私は、このままでいいのだろうかって……」

「………」

「……そして先日、それを両親に打ち明けました。そしたら、怒られちゃいました。自分たちの言うとおりにすれば幸せになる……そう、父と母から言われました」

(……怒るほどのことか?)

「それを聞いて、私もっと分からなくなって。……私の人生は、いったい誰のものだろう。両親にとって、私ってなんだろう。
……そんなことを、考えるようになってしまって……」

「……家出を考えた、と……」

あいちゃんは、困ったような笑みを浮かべた。

「家出というわけではないんですけどね。……ただ、一度自分を見つめ直そうって思ったんです」

「………」

彼女は、生まれた時からあらゆるものを与えられてきたのだろう。
お嬢様だし、それも仕方ないのかもしれない。

だけど、今彼女は、そのことで悩んでいる。
今歩く道は、自分で決めたものなのか。ただ両親に促され、流されて生きて来たのではないか……そんな葛藤が、彼女の中にあるんだろう。
それはオラには分からない。彼女にしか、分かりようもない苦悩だと思う。
だけど……

オラは立ち上がり、あいちゃんの手を握った。

「………しんのすけ、さん?」

「あいちゃん、ちょっと来て」

少し強引に、彼女の体を引っ張る。
彼女は、わけのわからないといった表情で、ただオラに手を引かれていた。

602 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/22(金)13:31:43 ID:1Yea9TWM2
「しんのすけさん!いったいどこへ……!!」

「………」

オラはただ、その場所を目指す。
そこはさっき見かけた場所。少しだけ高い岩場。

オラは彼女の手を掴み、岩場を駆けあがる。

「し、しんのすけさん……そっちは、海ですよ?」

「大丈夫。オラも一緒だから」

「で、ですけど……」

そして岩場の頂上に辿り着いたオラは、下を見る。
下は透き通るような海だった。他に岩はなさそうだ。
これなら……

「……しんのすけさん?」

不安そうにオラの顔を窺うあいちゃん。オラは、彼女に微笑みを向けた。

「……飛ぼうか、あいちゃん」

「……え?―――きゃっ!」

オラは彼女の手を引っ張り、海に飛び込んだ。

海面に落ちるなり、辺りには水しぶきが舞う。
塩水が口に広がる。目が少し痛い。

そしてオラとあいちゃんは、海水でずぶ濡れになった。

603 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)13:33:00 ID:DqN1JMTbn
あいちゃんのブラとパンテーが透ける!

605 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)13:34:13 ID:L6eIjY9Nb
>> 603
!!

606 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)13:35:19 ID:mBaZM4ofT
>> 603
おまいはもう少しピュアか気持ちで読みなはれや

ふぅ

609 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)13:42:59 ID:W5RqG0gFo
つかしんのすけが大人になった顔をイメージ出来ないのだが

610 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)13:46:21 ID:O0wP5RcYc

>>609
想像図

611 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)13:47:41 ID:QftD4HVR1
>> 610
ちゃんとひろしっぽい顔になっててすげぇ

613 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)13:53:09 ID:jF0DLiYMP
>> 610
だれだ…このイケメンは…




612 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/22(金)13:50:58 ID:1Yea9TWM2
「うぅぅ……ヒドいです、しんのすけさん……」

あいちゃんは服の裾を絞りながら、恨めしそうにオラを見た。

「ごめんごめん。……でも、少しすっきりしたでしょ?」

「……確かに、それどころじゃなくなりましたけど……」

「でしょ?ハハハ!」

「……もう、笑いごとじゃないですよ」

そう言いながらも、あいちゃんは笑っていた。
その笑顔を見たオラは、少しだけ安心した。

「……それで、いいんだよ」

「え?」

「あいちゃんの苦悩とかは、正直オラにはどうすればいいのか分かんないよ。だけど、こうやって嫌なことを忘れて、笑ってもらうことは出来る。
辛い時とか、苦しい時は、そうやって笑うのが一番なんだよ。落ち込んでいるときに色々考えても、結局泥沼にはまっちゃうものだし。
笑って、心をスッキリさせて、そしてもう一度考えるんだ。どうしていくのか……どうしたいのかを。
――そうやって、オラは毎日生きてる」

「………」

「あいちゃん……今日は一日、思いっきり笑おうよ。そしたら、何かが変わるかもしれない」

「……そう、ですね……」

するとあいちゃんは、水にぬれた靴を脱ぎ捨てた。

「……しんのすけさん!もう一度、飛び込んでみたいです!」

「……うん!行こうよ!一緒にさ!」

それからオラとあいちゃんは、海で遊び回った。

彼女にとって、こうやって服のまま海で遊ぶのは、初めてなのかしれない。
彼女は笑っていた。凄く楽しそうに。

618 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/22(金)14:16:35 ID:1Yea9TWM2
遠くの太陽が水平線にそろそろ落ちるかという時間。
オラとあいちゃんは、駅まで歩いていた。もうすぐ、最終電車の時間が迫っていたからだ。
これからどこに行くかは分からない。ただ、こんなところで野宿するわけにもいかない。

二人ならんで、畦道を歩く。
昼間来た時よりも、足元から伸びる影は長い。

「……しんのすけさん、今日はありがとうございました」

あいちゃんは、改めて頭を下げて来た。

「今日は、いいリフレッシュになれました。服が濡れてしまいましたけど、後日弁償を……」

「ああ、それはいいよ。ひまわりにはオラから言っておくから」

(たぶん、激怒されるだろうけど……)

「……そう、ですか。でも、今日という日は、私は忘れません」

「大袈裟だなあ」

「そんなことないです。今日は、本当に充実した日になりましたし。
――ですが、それも終わりのようです」

「……え?」

あいちゃんは、歩く先を見つめていた。その方向には、スーツ姿の男性が3人……

「あれは……」

「………」

男性たちは、何も言わずにオラ達のもとへ歩み寄ってきた。

「……お迎えに参りました、お嬢様……」

男達はあいちゃんに深々と一礼する。

「……お迎えって……」

「……おそらく、父が……」

あいちゃんは、寂しそうに呟いた。

619 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/22(金)14:29:43 ID:1Yea9TWM2
「………」

あいちゃんは、さっきまでの暖かい表情から、とても暗い、沈んだものに変わっていた。

「さあ、お嬢様……いつまでも、お父様方に迷惑をかけてはいけません」

「………ッ」

男の一人が、あいちゃんに手を差し出す。

「……分かりました」

あいちゃんは、男達に向け一歩足を踏み出す―――

「――あいちゃん、待って」

そんな彼女を、オラは手を出して制止した。

「し、しんのすけさん?」

「………」

彼女は驚いたように顔を向け、逆に男達はオラを睨み付けた。

そんな男達に、聞いてみた。

「……あいちゃんの両親は、今何してるんですか?」

男達は、一度顔を見合わせる。そして、一番先頭の男が、口を開いた。

「……会長ご夫婦は、現在重要な会議に出席されています。このようなところに、来れるはずもありません」

「……重要な会議、ね……」

……なんだか、凄く頭に来た。

620 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)14:39:43 ID:azD9vjYNs
駆け落ちくるな

621 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)14:41:48 ID:1Yea9TWM2
「……ご両親にお伝えください。――お嬢さんは、オラが責任もって預かる、と……」

「――ッ!?し、しんのすけさん!?」

「……それは、どういう意味でしょうか?」

「その通りの意味ですよ。彼女は、しばらく家には帰しません。どうしてもというなら、自分の足で迎えに来てください……そう、言っておいてください」

「………」

男達の眼光は、更に鋭さを増す。そして、さっきまでとは違う、どこかドスの効いた声を出してきた。

「……あまり、調子に乗らないでもらいたい。会長が、どういう立場の御方か……わかってるのですか?」

「そんなもん知ってるさ。十分すぎる程な」

「それならば、すぐにお嬢様をこちらに……」

「――あいちゃんの父親……それ以外に、何があるんだ?」

「―――ッ」

「オラには、あいちゃんの父ちゃんが何を考えているのかは分からないよ。
……でも、こうしてあいちゃんは悩んでる。苦しんでる」

「……」

「それを、ただ一言、自分たちの言うとおりにしろだので片付けて、挙句迎えにはこんな胡散臭い男達を送って、自分たちは大事な大事な会議と来たもんだ。
……これじゃ、あいちゃんが悩むのも無理ないな」

その言葉に、男は怒りを露わにする。

「……いい加減にしろ。たかだか一介のボディーガードの分際で、会長を侮辱するつもりか?どんな目に遭うのか、分からないのか?」

「……悪いが、今日はあいちゃんのボディーガードじゃないんだよ。今日はな、あいちゃんの友達として、ここにいるんだ」

「……しんのすけさん」

「友達が悩んでいるから、手を差し伸べただけだ。お前のとこの会長殿はどうだ?手を差し伸べたか?あいちゃんをちゃんと見てるのか?
――見てねえだろ!それが家族か!?そんなものが、家族って言えるのか!?」

「……」

「答えろよ!お前は、誰に頼まれてあいちゃんを迎えに来たんだよ!!
酢乙女グループの会長からか!?それとも、あいちゃんの父親からか!?
――答えてみろ!!!」

……辺りは、静まり返った。

622 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)14:59:55 ID:jF0DLiYMP
イケメン過ぎて漏れた

623 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)15:04:28 ID:1Yea9TWM2
すると男の一人に、突然電話がかかってきた。

「……はい。―――ッ!!」

電話に出た瞬間、男の顔色は変わる。

「は、はい――!!……いえ、実は……」

そして男は背を向けて、何かを語り始めた。

「―――え!?で、ですがそれは……!!………はい……はい。分かりました……では……」

電話を終えた男は、他の男達に何かを耳打ちする。
それを聞いた男達は、一様に驚きの表情を浮かべた。

……しかしすぐに、オラ達に背を向けて、離れはじめた。

「……なんだ?」

不思議に思ってると、男の一人が後ろを振り返った。

「……今日のところは、お嬢様をお任せいたします。ですが、何かあった時は……」

「……わかってますって。煮るなり焼くなり、好きにしてください」

オラの言葉を聞いて安心したのか、男はそれ以上何も言わずに、立ち去って行った。

「……いったい、どうしたんでしょうか……」

「……さあね。とにかく、駅に向かおう。電車の時間が、迫ってるし」

腑に落ちないところもあったが、オラ達は、再び駅に向かい始めた。




626 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/22(金)15:30:43 ID:1Yea9TWM2
電車に乗ったオラ達は、線路を走る振動に揺られていた。
窓の外の音は走行音に消されて、単調な音はどこか心地よく感じる。

気が付けば、あいちゃんは眠ってしまっていた。
オラの肩に、頭を預けて。
どうするか考えたけど、起こすのも悪いし、そのまま寝かせることにした。
そんな彼女の髪からは、仄かに海の香りがしていた。

電車は次の駅に止まる。
すると、ホームから、一人の老人が入ってきた。
初老くらいだろうか……しかし身なりは、とてもしっかりしている。スーツを着こなし、白髪の髪を揃えていた。その雰囲気は、威厳に溢れている。
その老人は電車に入るなり、真っ直ぐオラのところへ近付いてきた。
そして、優しく声をかけてきた。

「……隣に座っても、よろしいでしょうか?」

「……え、ええ……どうぞ……」

「ありがとう……」

そして老人は、オラの隣に座る。
電車の中は、オラ達3人しかいない。だから席だってガラガラだった。
それなのに、わざわざオラの隣に座るなんて……でも、その理由は、なんとなく分かっていた。

しばらくの間、オラと老人は、対面の窓の外を眺めていた。
夕陽が窓から射し込み、オラ達の顔をオレンジ色に染めていた。

627 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)15:48:14 ID:I1e6pm3rW
パッパ…

628 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)15:53:40 ID:J15C4QhAZ
これは…

629 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/22(金)15:54:03 ID:1Yea9TWM2
少し時間が経った頃、老人がふいに話しかけて来た。

「……隣のお嬢さん、よく眠っていますね」

「え?……ああ、はい。海で遊んだので、きっと疲れたんでしょう」

「そうなんですか。……なるほど、とても安らかに眠っている。本当に、気持ちよさそうだ……」

老人は、朗らかにあいちゃんを見つめていた。
そして視線を窓に戻し、再び口を開く。

「……実はですね、私にも、娘がいるんです」

「……そうなんですか……」

「はい。大切な一人娘でしてね。私は、その子のために、色々なことをしてきました。色々なものを与えてきました」

「………」

「……ですが、どうやら私は、その子が一番求めている時に、何も与えることが出来なかったようです。
――その子の御友人から、怒られてしまいました……」

「………」

「その友人の方には、心からの謝罪と、心からの感謝をお伝えしたいんです。
娘は、親の私がこう言うのもなんですが、とても優秀です。私達が期待することを、それ以上のことをして応えてくれていました。
――ですが私は、どうやら勘違いをしていたようです。そんな私達の期待を、娘は重く感じていたのかもしれません。
娘もまた、一人の人間……そんな当たり前のことを、私は、忘れていたんです。
忘れて、仕事に追われて、娘の手を、握り返してやれなかった……
それが、とても辛いんです」

老人は、表情を落としながらそう語る。

630 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/22(金)15:55:06 ID:1Yea9TWM2
「……不器用、なんですね」

「……そうですか?」

「はい。あなたは、とても不器用です。……彼女と、一緒ですよ」

オラがあいちゃんに視線を送ると、男性も彼女を覗き込んだ。

「……彼女も、本当は両親に甘えたいんですよ。ですが、そのやり方が、よく分からなかったようです。
わからないから、家出まがいのことまでしちゃってるんです」

「ほほう……家出、ですか……」

「はい。……ただ、彼女は、知ってほしいんだと思います。
自分の気持ちを、想いを、葛藤を、苦悩を、聞いてほしいんだと思います。
ですが、忙しい両親に気を使うあまり、それが上手く伝えることが出来てないんです。
……ほら、あなたに似てるでしょ?あなたもきっと、そうなんじゃないんですか?」

「……さあ、私には分かりません……」

「分からないなら、一度娘さんと話してみてください。夕ご飯でも食べながら。
オラも、妹と一緒にご飯を食べるんです。そして、色んな事を話すんです。
買い物での出来事、仕事での出来事、テレビの内容……くだらないことも多いですが、そうやって話しながらご飯を食べるの、けっこう、いいもんですよ」

「……」

「……あなたなら、きっと娘さんと上手くやれますよ。だってあなたからは、娘さんへの愛が、しっかりと見えてますから。
必要なのは、ほんのちょっとしたきっかけなんです。ただ、それだけなんです」

「……そのきっかけが、よく分からないんですけどね……」

「そんなの簡単ですよ。
――ただその人の帰りを待ってればいいんです。そして、帰ってきたらこう言うんです。
『おかえりなさい』、と……」

「………」

「あなたの娘さんは、もうすぐ家に帰ります。
――帰りを、待っていてあげてください」

「……そうですね。そうします」

そして老人は、徐に席を立った。




631 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/22(金)15:56:25 ID:1Yea9TWM2
老人は、そのままドアの方に歩く。そしてオラに背を向けたまま、再び話しかけて来た。

「……もし娘が、あなたのような人と巡り合っているとするなら、それはきっと、娘にとって最も幸運なことかもしれませんね」

「……違いますよ。最も幸運なのは、あなたのような、娘さんを心から想っている親の元に生まれたこと、ですよ……」

「ハハハ……恐縮です……」

そして電車は、次の駅に止まる。
ドアが開くと同時に、老人は電車を降りる。そしてホームから、最後に声をかけてきた。

「……その女性を、頼みましたよ」

「……はい。ちゃんと、家に送り届けます」

最後に老人が一礼すると、ドアは閉まり、電車は駅を離れはじめた。

しばらく走ったところで、オラはあいちゃんを見る。
彼女は、依然としてオラの肩に顔を埋めたまま、動かなかった。

そんな彼女に、囁きかけるように、声をかけた。

「……あいちゃん、キミは、ちゃんと愛されているよ。そしてその人は、キミを待ってくれているよ」

「………」

「……だから、家に帰ろう。キミを待つ人のところへ。キミがいるべき場所へ。
オラも、一緒に行くからさ」

「……はい……はい……」

あいちゃんの口から、微かに声が漏れる。
電車の音に掻き消されて、よく聞こえない。……ただ、その声は、僅かに震えていた。

そして隠すかのように俯いた彼女の顔からは、雫が垂れ落ちる。
ポタリ……ポタリ……と、降り積もった雪が春の訪れと共に溶け出すように、零れていた。

それは、きっと暖かいものだ。そしてきっと、彼女の心から溢れ出たものだろう。

そんなオラ達を乗せた電車は、一定の速度で走り続ける。
……まもなく電車は、春日部に到着する頃だ。

632 :ぶたさんのゆうれい◆dSysy/OC5.fU:2014/08/22(金)15:57:27 ID:mCxmX6mLO
(´;ω;`)

633 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)16:02:35 ID:Qz5fxeKDD
聞いてたのか…

634 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)16:08:20 ID:dP6n4vUHB
なんて書きこんだらええかわからん(泣)
ええ話すぐる

635 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)16:13:58 ID:L6eIjY9Nb
しんちゃん・・・男前すぎや

636 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)16:47:50 ID:e9PlIqueO
>> 1はドラえもんのSS書いた人?

640 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/22(金)17:14:59 ID:1Yea9TWM2
>> 636
うん

638 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)17:05:44 ID:m9KSvPEbf
涙でホームボタンの反応が悪くなったww

639 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)17:08:26 ID:dP6n4vUHB
これ、しんのすけとあいちゃんの結婚不可避じゃねー

641 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)17:56:34 ID:I1e6pm3rW
面白くなってきやがった!

642 :名無しさん@おーぷん:2014/08/22(金)18:04:42 ID:5TLXTbwyc
それにしてもあいちゃんとのフラグたってないかこれ

669 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/23(土)01:00:12 ID:tMojtNx6K
その後あいちゃんは家に帰って行った。
入り口の立派過ぎる門のところには、大量のメイドさんと、優しそうな笑みを浮かべる女性、それと、初老の男性……
二人の姿を見た瞬間、あいちゃんは駆け寄り、男性の胸に飛び込んで泣いていた。
そんな彼女を、両親は優しく抱擁する。

……その姿を見て、少しだけ羨ましかった。それでも、オラの心は温かくなっていた。

家族のひと時に、部外者のオラがいつまでもいるのは無粋。
オラは静かに、一人家に帰った。

そして次の仕事の日……事件は、起こった。

鬼の目にも涙、か……

コチラからご覧ください↓




①【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。

②【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。

③【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。

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⑤【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。

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⑦【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。

⑨【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。

⑩【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。

11【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。

最終回12【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。