674 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/23(土)01:17:50 ID:tMojtNx6K
「――おはようございます……」

仕事場に出勤したオラだったが、さすがに前日海で遊びまくったせいか、体中が痛い。
オラももう歳なのかもしれない。少しは体を労わるようにしなければ。

それはそうと、さっきから人に見られまくっている。
エントランスホールにいる従業員は、皆がオラを見るなり隣に立つ人とひそひそ話を始める。
その光景は、正直いいものではない。
何か顔にでもついているのだろうか……はたまた、間違えて寝間着でも着て来たのだろうか……

少しだけ背中を丸めたオラは、足早にあいちゃんの事務室に向かった。
途中通る廊下の掲示板には、至る所で人だかりが出来ていた。何があったのかは気になったが、とにかく人が来ないあの部屋を目指した。

「――おはよう、あいちゃん」

入り口を開けて、あいちゃんに挨拶をする。
オラに気付いたあいちゃんは、座っていた席から立ち上がり、オラの元へ駆け寄って来た。

「――おはようございます、“あなた”」

「うん、おはよう……って、あなた?」

「はい。あなた、です」

ニッコリと微笑みを向けるあいちゃん。しかして、なぜ急にあなたと……

「ええと……なんでオラを“あなた”って言うの?」

「はい。……これです」

「これ?」

あいちゃんは、一枚の紙を手渡してきた。

「……………あいちゃん、これって……」

image

675 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/23(土)01:17:57 ID:tMojtNx6K
そこに書いてある文字を、オラは4度見ほどしてみた。しかし、何度見ても同じことが書いてあった。

『祝!酢乙女あい、婚約!』

「……あいちゃん、結婚するんだ……」

「はい」

「へえ~。……誰と?」

「それはもちろん、しんのすけさんとです」

「……ああ、なるほど。やっぱりそうか……」

それは予想していた通りの返答であった。何しろ、しっかりと書いてある。

――『お相手は、酢乙女グループ特別顧問、野原しんのすけ』と……

「ああ、なるほど。オラがあいちゃんと婚約ね。
オラが…あいちゃんと…………って、ええええええええええええええええええ!!??」

朝一の事務室では、オラの叫び声が響いていた。

676 :名無しさん@おーぷん:2014/08/23(土)01:27:47 ID:1TcsffAGm
急に結婚キター

677 :名無しさん@おーぷん:2014/08/23(土)01:28:41 ID:tUT0sRIFK
不可避から確定になった
まぁ、こうならなかったのがむしろ不思議ではあったんだが

678 :名無しさん@おーぷん:2014/08/23(土)01:30:19 ID:6YQhy6Wfn
北アああああああああああああああああああああ

680 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/23(土)01:54:34 ID:tMojtNx6K
「ちょっとあいちゃん!これ、どういうこと!?」

オラはあいちゃんに詰め寄る。

「どうもこうも、そういうことです」

あいちゃんは、相変わらずにっこりと笑っていた。

「いやいや…いやいやいやいや!なんで急にこんなことになってるの!?」

「……実はですね、私の父が、しんのすけさんのことを大変気に入っていまして……」

「……それで?」

「好きかと聞かれて、大好きですと答えまして……」

「……それで?」

「結婚することになりました」

「いやおかしいから!!色々飛び過ぎだって!!」

「あら。ちゃんとご家族にも確認を取りましたよ?」

「か、確認?」

「はい。ひまわりさんに。しんのすけさんと結婚したいと言ったところ、『あんな兄で良ければ、じゃんじゃん結婚してやってください』って言われましたし」

「それ、家族だけど、オラへの確認は!?」

「そんなもの必要ありません。私としんのすけさんが結婚することは、すでに決定事項ですし」

「えええ……」

「……あら、もうこんな時間。すみませんが、会議に出席してきます」

あいちゃんは、愕然とするオラを置いて、部屋の出入り口に向かって行った。

「ちょ、ちょっとあいちゃん!まだ話は―――」

「――しんのすけさん。一つ、言っておきますね」

部屋の入り口を開けたところで、オラの方を振り返る。
そして、不敵な笑みを浮かべた。

「――私も父も、かなり“しつこい”ですから。あしからず……」

そう言い残したあいちゃんは、部屋を出ていった。

残されたオラは、ただ愕然とするしかなかった。

682 :名無しさん@おーぷん:2014/08/23(土)01:58:21 ID:gvCxr3qtu
あいちゃんの不敵な笑み

なんか想像できた

683 :名無しさん@おーぷん:2014/08/23(土)02:01:47 ID:KKVsLN1yA
結婚式に四郎を呼んで「ちくしょうちくしょう」と妬いてる可愛い四郎が見たい

684 :名無しさん@おーぷん:2014/08/23(土)02:02:54 ID:6YQhy6Wfn
四郎wwwとりあえず結婚はするべきやろ!!!

686 :名無しさん@おーぷん:2014/08/23(土)02:13:30 ID:6YQhy6Wfn
期待あげ




715 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/23(土)13:02:56 ID:SUybbF83o
それからのあいちゃんの押しは凄まじかった。
一つ、開き直ったのかもしれない。
弁当作りに出張という名のドライブ……一切引くことのないその様は、さしずめ防御を捨てた突撃兵といったところか。
家に帰れば、ひまわりからは結婚を勧められる毎日。

「はぁ……」

思わず、ため息が出てしまった。

「……どうしたんですか、しんのすけくん。ため息なんて吐いて……」

車を運転する黒磯さんは、視線を前に向けたまま聞いてきた。

「い、いえ。ちょっと最近、疲れてまして……」

「……お嬢様、ですか?」

「ハハハ……」

“はいそうです。”……などと返すわけにもいかず、とりあえず失笑で茶を濁す。
すると黒磯さんは、ふっと笑みを浮かべた。

「……少しばかり、大目に見てあげてください。お嬢様は、ご自身でも接し方があまり分からないのです」

「……小さい時には、ここまでなかったんですよ。ちょっと、びっくりしちゃいまして……」

「確かにお嬢様は、幼少時からしんのすけくんお慕いしておられました。
……ですが、やはり幼児期と今では、想いの位置が違うものです」

「想いの、位置……」

「はい。幼児期には、憧れが大きなシェアを占めるものです。しかし今は、それとは別の何かに惹かれています。
小さな頃から変わらない想い……しかし、実際の心境は、あの頃とどこか違うと違和感を覚えているはずです。
――故に、お嬢様自身、戸惑っているところもあるのです」

「……」

「ですから、今は暖かく見守ってあげてください。
これはボディーガードとしてではなく、私自身からの願いですよ」

「……黒磯さんは、大人ですね。凄くダンディーだと思います」

「ハハハ……私は、ダンディーなどではありませんよ。
――私はただの、黒磯です」

(……ダ、ダンディーぃ……)

716 :名無しさん@おーぷん:2014/08/23(土)13:19:58 ID:RoIHpWRQA
上尾先生が惚れた理由もわかるわ

720 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/23(土)14:18:00 ID:Egw2aigzc
黒磯さんからそうは言われても、やはりあいちゃんからの圧は相当なものだった。

ようやく仕事が終わり、ヘロヘロになって帰宅する。
しかしまあ幾分か慣れたところはあった。
それが救いかもしれない。

「お兄ちゃんさ、なんではあいちゃんと結婚しないの?」

ひまわりは、実に不思議そうに聞いてくる。

「あいちゃん、綺麗だし、優しいし、仕事もバリバリだし、尽くしてるし……お兄ちゃんにはもったいないくらいなんだけどなぁ……」

妹よ。何気に失礼だぞ。

「……それはわかるんだけどな。ただ、結婚となると話は違うんだよ。
夫婦になれば、付き合っているときとは違う、制約みたいなやつが出るんだ。
好きだから結婚する……確かに、その要素は大きいけど、それだけじゃうまくいかなくなることもあるんだ。
――そんなに簡単なものじゃないんだよ。結婚は」

「……そんなもんかなぁ」

「そうそう。だからお前も、よく考えろよ?」

「……うん」

……その時、突然家のチャイムが鳴り響いた。

「……と、こんな時間に……」

誰だろうか気になりながら、オラは玄関に向かう。
そして鍵を開け、ドアを開いた。

「――はい。どちら様で……」

「……や、やあ……」

玄関先に立つ人物は、少し不器用な笑顔を見せ、片手を上げて挨拶をする。
その人は、オラがよく知る人だった……

「……よ、四郎さん?」

「……」

――四郎さんは、困ったような笑みを浮かべたまま、そこに立っていた。




721 :名無しさん@おーぷん:2014/08/23(土)14:58:25 ID:9PIfrX9Wx
東大きたー

722 :名無しさん@おーぷん:2014/08/23(土)14:59:49 ID:2SoZECSFu
東(京カスビアン)大キター

725 :名無しさん@おーぷん:2014/08/23(土)16:17:15 ID:KKVsLN1yA
四郎キター*・゜゚・*:.。..。.:*・’(*゚゚*)’・*:.。. .。.:*・゜゚・*

726 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/23(土)17:17:28 ID:Egw2aigzc
「――本当にお久しぶりですね、四郎さん」

「あ、ああ……」

四郎さんを家に招き、テーブルを囲む。
四郎さんは、どこか落ち着かない様子だった。
それに、その身なり……着ている服はぼろぼろ。白髪混じりの髪もボサボサ。顔も煤汚れている。

「はい四郎さん。お茶です」

ひまわりは車椅子のまま、四郎さんに湯飲みを渡す。

「あ、ありがと……」

「四郎さんのことは、お父さん達から聞いてましたよ。ゆっくりしてくださいね」

笑顔を見せたひまわりは、奥へと戻っていった。
そんな彼女の背中を見ながら、四郎さんは呟く。

「……そうか……。確か、ひまわりちゃんは……」

「……ええ。事故で……」

「……それは、大変だったね」

「いいえ。ひまわりも悲観してるわけじゃありませんので、あいつはあいつなりに、きっと力強く生きていきますよ」

「……ひまわりちゃんは、強いんだね。それに比べて、僕は……」

言葉を最後まで口にしないまま、四郎さんは俯き目を伏せた。

「……四郎さん?」

727 :名無しさん@おーぷん:2014/08/23(土)17:20:01 ID:KKVsLN1yA
なんかワロタwww

728 :名無しさん@おーぷん:2014/08/23(土)17:43:06 ID:ep8NfxdhS
四郎はおまいら化したのか?

732 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/23(土)19:25:03 ID:ENV2hK7Pg
四郎さんは、やはりどこか様子がおかしい。
何か、追い詰められているようにも見える。

「……あの、四郎さん。それで、今日はどういう用件で……」

「――そ、そうだ!せっかくなんで、僕がご飯作りますよ!」

「え?い、いや……」

「まあまあ!ちょっと台所借りますね!」

「え?あ、ちょっと……!」

まるで逃げように、四郎さんは台所へ向かう。
やはり、何かあるようだ。しかも、オラに言いづらい何かが……
それが何なのかは分からない。分からないけど……

(……とりあえず、様子を見るか)

もしかしたら、お金に困っているのかもしれない。
こう言ってはなんだが、彼の姿を見る限り、普通の暮らしをしているとは考え難い。
それならそうと言ってくれればいいのだが……まあ、そこは本人の口から言うべきことだろう。

オラはとりあえず、テレビでも見て待つことにした。

733 :名無しさん@おーぷん:2014/08/23(土)19:30:09 ID:ep8NfxdhS
これは冷蔵庫の中身かっさらわれるフラグ

734 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/23(土)19:50:11 ID:ENV2hK7Pg
テレビでは、夜のワイドショーが流れていた。
特に見たい番組もなかったし、ぼーっとしながら眺めていた。

芸能人の噂、スポーツの結果、特集……いつもと変わりないような、極々ありふれた話題が放送されていた。
そして番組は、ニュースに変わる。

『――本日夕方ころ、春日部市○○のコンビニエンスストアに、強盗が入りました』

(家からわりと近いな……物騒だな……)

『犯人は店員を包丁のようなもので切りつけ、金を出せ、と言いました。しかし店員が大声を出すと、男は何も盗らずに逃走しました。
県警は、強盗致傷事件として捜査を開始し、防犯カメラの映像を公開しました。
――こちらが、その映像です』

そしてテレビには、防犯カメラの映像が流れる。

……そしてオラは、そこに映る犯人が、誰かに似ていることに気が付いた。

(……あれ?これって……)

肥満体質、メガネ、ぼろぼろの服、ボサボサの髪……

「――ッ!?う、嘘だろ!?これって……まさか……!!」

「――ニュース、流れちゃったんだね……」

「――ッ!?」

突如、背後から四郎さんの声がかかる。
すぐに後ろを振り返ると、そこには、四郎さんが立っていた。魂の抜けた、脱け殻のような、弱々しい笑みを浮かべながら……
――そしてその手には、包丁が握られていた。

全身の毛が逆立った。心拍数は一気に上昇し、背中に嫌な汗が流れる。

「……よ、四郎さん……」

「……ごめんね……しんちゃん……」

――テレビでは、繰り返し防犯カメラの映像が流れる。

そしてそこに映るのは、四郎さんだった。

735 :名無しさん@おーぷん:2014/08/23(土)19:52:48 ID:oKoWtTMsH
マジかよ…

736 :名無しさん@おーぷん:2014/08/23(土)19:58:56 ID:yfeBk5JJr
ひまちゃん危ない!

737 :名無しさん@おーぷん:2014/08/23(土)20:00:13 ID:kvj5331bF
急展開過ぎ

744 :名無しさん@おーぷん:2014/08/23(土)20:21:50 ID:ep8NfxdhS
ボディーガードたるもの体術くらいなら……

749 :名無しさん@おーぷん:2014/08/23(土)21:33:57 ID:Vsa6k00b5
急展開ワロタwww

でも、好きだわ。
支援。

750 :名無しさん@おーぷん:2014/08/23(土)21:36:19 ID:RmydScgCF
このスレが毎日の楽しみになってる
支援




751 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/23(土)21:38:09 ID:ENV2hK7Pg
「――さて……しんちゃん、出発しようか……」

「……」

オラは、黙って車のエンジンをかけ、発車した。
後部座席には、包丁を持った四郎さん。そしてその隣には……

「……お、お兄ちゃん……」

ひまわりは、顔を真っ青にして震えていた。
そんなひまわりの顔を見ていないのか、四郎さんは、生気のない顔のまま前を見ていた。

……あの後、オラたちの元へひまわりが来た。
そして彼女は車椅子を降ろされ、人質となった。
歩けない彼女がいる状況に、下手に動くわけにはいかなかった。
オラは四郎さんの指示に従い、どこへ向かうのか分からないまま、車を走らせていた。

「……四郎さん。とにかく、一度落ち着いて……」

「――いいからッ!!……今は、黙って運転しててよ。しんちゃん……」

「……分かりました」

今は、刺激しない方が良さそうだ。
オラはそれ以上のことは言わず、ただ車を走らせる。

……それにしても、四郎さんは、いったいどうしてこんなことを……

最後に会ったのは、オラが小学校に入校したくらいだろうか……
あれから、四郎さんに、何があったのだろう……

様々な疑問が浮かぶ。当然、答えなど分からない。

今はただ、ひまわりの身の安全のために、車を運転するしかなかった。

760 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/23(土)22:47:34 ID:ENV2hK7Pg
四郎さんの指示のもと、辿り着いたのは山間にある廃屋だった。
今日は雲が出ているのか、星の灯りはほとんどない。辺りは漆黒の闇に閉ざされ、木々がどれ程あるのかも分からない。今ある光は、四郎さんが持ってきた懐中電灯だけであった。
薄気味悪さもあったが、それ以上にこれからのことが怖かった。

オラとひまわりは、そこにある柱に縛り付けられていた。

「……本当にごめんね、しんちゃん、ひまわりちゃん……」

「……謝るくらいなら、解放してください。そして、一緒に自首しましょう。こんなことをしても、いずれ必ず捕まりますよ」

「……うん、そうかもね……。でも、僕はもう人を刺したんだ。……もう、引き返せないよ……」

「……四郎さん……。ならせめて、ひまわりだけは解放してください」

「お、お兄ちゃん!?」

「ひまわりは見ての通り、歩くことが出来ません。このまま一緒に行動しては、必ず足手まといになりますよ」

「………」

……自分で言った言葉に、胸が痛んだ。

――“歩けないひまわりは、足手まとい”――

本当は、口が裂けてもそんなことは言いたくなかった。
そんなこと思っていない。だけど、彼女が解放されるなら、その可能性に賭けてみた。

……だが四郎さんは、頷くことはなかった。

「……キミ達は、大切な人質だからね。悪いけど、解放はしないよ……」

(……くそ……ダメか……)

とにかく、四郎さんの狙いが分からない。
それを探るべく、オラは再び話しかけた。

「……どうしてオラ達を?」

すると四郎さんは、失笑するかのように、短く笑う。

「……そんなもの、決まってるじゃないか。
――金だよ……」

761 :名無しさん@おーぷん:2014/08/23(土)22:51:23 ID:f3XdXTxnr
あいちゃんへ身代金か

768 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/23(土)23:14:04 ID:ENV2hK7Pg
四郎さんは、ライトの光をオラに当てる。
眩しくて眉をひそめていると、四郎さんの声が響いた。

「噂で聞いたよ。――しんちゃん、キミ、酢乙女グループのご令嬢と婚約したらしいじゃない。
……凄いよね。日本トップレベルの大企業のご令嬢だよ?これから先、遊んで暮らせるだけの金が入るんだ。
……許せないよね。僕はこんなに苦しいのに、キミは想像も出来ないほど、裕福な人生を歩むんだ」

「……」

「……だからさ、その幸せ、少し分けてほしいんだ」

「……あいちゃんに、身代金を要求つもりなんですか?」

「そうだよ。いくらにしようかな……。キミのためなら、いくらでも出しそうだけどね。ヘヘヘ……」

ライトの逆光で、四郎さんの顔どころか、姿すらもは見えない。
まるで闇の底から、声だけが響いているようだった。

彼は今、笑ってるのか……それとも、泣いているのか……

しかし彼の口調には、どこか儚さも感じられる。
“引き返せない”……
彼はそう言った。

四郎さんは、本当は止めてほしいのだろうか。
少なくとも、オラの知る四郎さんは、ケチで気弱でスケベだけど、本当はとても優しい人だった。
絶対に、こんなことをするような人ではなかった。

……それなら、どうして……

「……四郎さん……何があったんですか?何があなたを、こんなことまでさせてるんですか?」

「……」

オラの問いを受け、少し、ライトの光が下がった。そして彼の顔が浮かび上がる。

……彼は、涙を流していた。

769 :名無しさん@おーぷん:2014/08/23(土)23:16:29 ID:tUT0sRIFK
泣きながら狂喜に走る四朗さん想像したら涙出てきた

770 :ぶたさん◆dSysy/OC5.fU:2014/08/23(土)23:16:59 ID:WadsVgIed
人質にされても尚、人の事を心配を出来る子…(´;ω;`)
しんちゃん…(´・ω・`)

773 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/23(土)23:35:45 ID:ENV2hK7Pg
「……僕はね、必死に勉強して、大学に入った。大学でも一生懸命単位を取って、卒業も出来たんだよ」

「……」

「……でも、就職先が見つからなくてね。当然だよね。年もそこそこ上で、四流大学出身、何の取り柄もない僕なんて、どの会社も欲しくはないだろうね。
――結局僕は、浪人生活に逆戻りさ。
皮肉だよね。大学浪人を抜け出した先にあったのは、就職浪人なんだよ……」

「……」

確かに、四郎さんが大学を出た頃は、ちょうど就職氷河期と呼ばれていた時代……
就職は、そうとう困難だっただろう。

「……それでも、仕事をしないと生活は出来ない。仕方なく僕は、アルバイトをしたんだ。
……でもそこは、地獄だったよ……」

「地獄……」

「僕ね、色々鈍いんだ。だから、仕事を覚えるのが遅くてね。
年下のバイトの先輩にはバカにされ、罵倒され……客にはクレーム入れられ、店長には怒鳴られ……そしてまた、後ろ指を指されて笑われる毎日だった……」

「……」

「それでも頑張ったんだ。今は耐える時だ。いつか就職出来れば、この生活も終わりだ。
……そう、毎日自分に言い聞かせてたよ。
そしてついに、僕は就職出来たんだ。小さな会社だったけど、それでも、僕は嬉しかった。これで普通の、落ち着いた生活が出来るって思ったんだ。
……でも、現実は違ってた」

「……それじゃ……」

「そうだよ。そこに待っていたものも、結局地獄だったよ。
怒鳴られ、笑われ、蔑まれ……何も変わらない、苦しいだけの生活だったんだ……」

「……四郎さん……」

「しばらく勤めたけど、最後には鬱になってね。
それを上司に言ったら、あっさりとクビを迫られたよ。
……そしてまた、僕は何もない生活さ……」




777 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/23(土)23:53:30 ID:ENV2hK7Pg
「それからはアルバイトしても続かず、その日暮らしの生活だったよ」

「……」

「何のために生きているのかも分からない。ただ生きることにしがみつく毎日。
……それってさ、死んでるようなものなんじゃないの?
そう考えたら、どうでも良くなってきてね。最後に大金で豪遊して、つまらない人生に終止符を打つつもりだったんだ……」

「……それが、強盗とオラ達を誘拐した理由なんですか?」

その問いに、四郎さんは静かに頷いた。

四郎さんの話は、とても辛かった。
それでも、彼の経験した辛さは、桁違いのものだっただろう。
社会の厳しさに飲み込まれ、絶望し……今の彼は、生き方を失っているのかもしれない。
もちろんそれは、犯罪を正当化する理由にはなり得ない。
……それでも、同情せざるを得なかった。

……だけど……

「……四郎さん……オラは――」

「――ふざけないで!!」

「――ッ!?」

「――ッ!?」

突然暗闇の中、ひまわりの怒声が響き渡った。

オラと四郎さんは、思わず声を出すのを忘れ、ただ彼女を見つめていた。

826 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/24(日)14:20:09 ID:MStGc6Yev
ひまわりは、四郎さんを睨み付けていた。
さっきまでの怯えていた彼女とは、まったく違っていた。力強く、鋭い目つきだった。
こんな眼がひまわりに出来たことに、オラは驚いた。

「ひ、ひまわりちゃん……」

四郎さんも、動揺していたようだった。
ひまわりは、なおも四郎さんに叫ぶ。

「どれだけ辛くたって、どれだけ苦しくたって、それがこんなことをする理由になんてなるわけないでしょ!?
あなたは卑怯だよ!!四郎さん!!自分の環境を、全部他人のせいにしてる!!
――そんなの、卑怯だよ!!」

「……う、うるさい!!うるさいうるさい!!
お前に――お前に何が分かる!!僕が味わった苦しみが、お前なんかに分かるもんか!!」

「辛い思いをしたのは、あなただけじゃない!!誰だって、苦しいことがあってる!!
――四郎さんだって同じでしょ!?あなたに……私とお兄ちゃんの、何が分かるの!?」

「―――ッ!」

「………」

「お父さんとお母さんが死んで……私は、一人ぼっちになったと思った!!でも、お兄ちゃんが助けてくれた!!私は一人じゃないって言ってくれた!!
私が落ち込まないように、無理して笑いかけてくれてたよ!?」

いつの間にか、ひまわりの目からは涙が溢れていた。オラと四郎さんは、ただ彼女の言葉を受ける。
彼女の言葉は、オラ達の時を止めていた。

「……私、知ってた……お兄ちゃんが、誰もいないところで泣いていたの……知ってた……!!
本当はお兄ちゃんだって……誰かに助けてほしかったんだよ……。
―――本当は、お兄ちゃんだって辛かったはずなのに……お兄ちゃんは笑ってたよ!?
……本当は……お兄ちゃんだって……!!」

言葉の途中で、ひまわりは声を上げて泣き出した。
漏れる息に言葉は飲み込まれ、彼女はそれ以上、何も言えなくなっていた。

827 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/24(日)14:20:17 ID:MStGc6Yev
「……ひまわり……」

「……だから、なんだよ……。だから、なんなだよ!!」

ひまわりの姿を見た四郎さんは、何かを振り落すかのように声を荒げた。

「……僕には、そんな立派なお兄ちゃんなんていない!!そんな立派な人間にもなれるわけもない!!
誰もが強くなんてないんだよ!!弱い人間だっているんだよ!!
僕だって頑張ったんだ……必死に、頑張ったんだよ!!だけど、うまくいかないんだよ!!
何をしてもダメ!!どれだけ頑張ってもダメ!!全部全部全部……!!
期待しても、結局はみんなうまくいかない!!ぬか喜びだけさせて、あるのはいつもの毎日だけ!!
――そんな毎日なら……それなら……いっそ……!!」

「――いっそ、全部捨ててしまいたい……ですか?」

「―――ッ」

四郎さんの叫びは、たぶん、心の声だったんだろう。
それを聞いて確信した。

……この人は、誰かに助けてほしかっただけだって。

828 :名無しさん@おーぷん:2014/08/24(日)14:33:46 ID:rOjS4Xx00
ひまわり△

829 :名無しさん@おーぷん:2014/08/24(日)15:32:45 ID:3TS0c6UQU
四郎が完全におまいらでワロタww

830 :名無しさん@おーぷん:2014/08/24(日)16:17:15 ID:D8gNq3qm1
>> 829こんなに行動力のあるおまいらなんていないだろ

836 :名無しさん@おーぷん:2014/08/24(日)17:19:23 ID:5gobUJl6I
え、しんのすけが影で泣いてるのしってるってひまわりが言った瞬間泣けた。俺もろすぎか?

837 :名無しさん@おーぷん:2014/08/24(日)17:55:27 ID:HCEE7TjDV
>> 836
泣いてもええんやで

839 :名無しさん@おーぷん:2014/08/24(日)18:12:23 ID:3TS0c6UQU
たまたまこのスレ見てた女の子と仲良くなりました!奇跡や!

840 :名無しさん@おーぷん:2014/08/24(日)18:14:57 ID:HCEE7TjDV
>> 839
マジかよww

859 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/24(日)21:55:57 ID:MStGc6Yev
「……四郎さん、オラもね、強くはないんですよ」

「……しんちゃん……」

「父ちゃんと母ちゃんが死んだとき、オラ、どうすればいいのか分からなかったんですよ。それまで当たり前のようにいた二人がいなくなって……目の前には、泣きじゃくるひまわりしかいなくて……。
……本当はオラだって、ただ泣きたかったんです。でも、ひまわりがいる以上……お兄ちゃんである以上、それは出来ませんでした。
オラまで泣いてしまったら、この子はきっと、オラよりもどうすればいいのか分からなくなる……そう、思ったんです」

「……お兄ちゃん……」

「……正直ね、すごくキツかったんですよ。感情を素直に出すひまわりを見て、何度も羨ましく思ったんです。
どうしてこの子ばかり泣けるんだろう。どうしてオラばっかり強がらなきゃいけないんだろう……そんなことさえ思うこともありました。
――授業参観も、風邪引いた時も、進路指導も、卒業式も、入学式も……オラの隣には、いつも泣き続けるひまわりしかいませんでした」

「………」

ひまわりは、目を伏せた。それを見ると、やはり胸が痛くなる。
この話は、誰にも話したことがなかった。だけど、今話さないといけないと思った。

860 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/24(日)21:56:03 ID:MStGc6Yev
「……でも、心が潰れようとした時に、ひまわりはいつも笑うんですよ。笑いながら、お兄ちゃんお兄ちゃんって言って来るんですよ。
何だか笑えませんか?本当はキツいオラに、笑いかけてくるんですよ?
……もう、笑うしかないじゃないですか……そんな顔されたら、どれだけ辛くても、笑い返すしかないじゃないですか……。
……でもね、不思議なんですよ。笑ってると、それまで締め付けられていた気持ちが、何だか楽になるんですよ。
――そん時、オラ気付いたんです。
ひまわりを支えようと思っていたけど、支えられていたのは、オラの方だったって」

そしてオラは、四郎さんを見た。彼はただ黙って、オラの話を聞いていた。

「……四郎さん、あなたを支えてくれる人は、どこかに必ずいます。笑顔を向けてくれる人は、必ずいます。
それは両親だとか友人だとか……あなたの身近に、いるはずなんです」

四郎さんは、項垂れた。そして、手で顔を覆いながら声を漏らす。

「……そんなもの、僕にはいないんだよ。両親からは勘当され、友達もみんな離れていった……。そんな僕に、笑顔を向ける人なんて、いないんだよ……」

「――オラがいますよ」

「………!」

「オラは、四郎さんが、本当は優しい人だって、よく分かっています。それに、父ちゃんと母ちゃんなら、きっとあなたに笑顔を向けていたはずです。
一人だなんて言わないでください。もっと、よく見てください。
――オラ達は、友達じゃないですか……」

「……ありがとう……ありがとう、しんちゃん……」

四郎さんは、その場に崩れ落ちた。顔を隠していた手を力なく下げ、涙を流すその顔を、ただオラ達に見せていた。

「……四郎さん。友達として、もう一度お願いします。――もう一度、やり直しましょう。
これから先、きっとあなたなら頑張れるはずです。でももし辛くなったら、いつでもご飯を食べに来てください。
父ちゃんと母ちゃん、オラとひまわり、そしてあなた……5人でテーブルを囲んだあの日のように、また一緒に、ご飯を食べましょう」

「……うん……うん……!」

「……自首、してください。オラも一緒に、付き添いますから……」

「……あああ……うあああああ……!!」

四郎さんは、その場で泣き崩れた。床に額を押し当て、ただただ慟哭を響かせていた。

彼の持ってきてたライトは、気付かない間に電池が切れていたようだ。
それでも、いつの間にか、外からは月の光が差し込む。

そして月光のスポットライトは、床に転がる刃物を照らす。
鈍く仄かに光を反射していたが、それはどこか、寂しい光だった。

862 :名無しさん@おーぷん:2014/08/24(日)22:05:08 ID:HCEE7TjDV
四朗さん・・・帰ってこいよ・・・

864 :名無しさん@おーぷん:2014/08/24(日)22:08:53 ID:WsP9IMvUW
最後の情景描写もすばらしすぎるし、涙腺崩壊……

865 :名無しさん@おーぷん:2014/08/24(日)22:09:45 ID:OVDj7Mwag
つきあかりふんわりおちてくるよるはー

866 :名無しさん@おーぷん:2014/08/24(日)22:25:30 ID:heDC4Of0v
うぉぉぉ・・・

867 :名無しさん@おーぷん:2014/08/24(日)22:26:42 ID:D8gNq3qm1
「――オラがいますよ」
このイケメンである

868 :名無しさん@おーぷん:2014/08/24(日)23:16:02 ID:io4QgIPfN
しんのすけイケメソすぐるww

869 :名無しさん@おーぷん:2014/08/24(日)23:19:06 ID:PWzsWySfF
面白すぎる!
更新楽しみに待ってます!

870 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/24(日)23:31:47 ID:MStGc6Yev
その後、四郎さんはオラ達を解放し、地元の警察署へ自首した。
オラも、それに同行した。

受付にことの詳細を説明すると、警察官は驚きながらも四郎さんを連れて行った。

『……しんちゃん、僕、罪を償うよ。そして、もう一度頑張ってみるよ……』

彼は、最後に微笑みながらそう言った。疲れ切っていたが、その顔には、どこか生きる強さを感じた。
彼を見送った後、オラもまた事情を聞かれた。
狭い部屋に案内され、調書を取られる。
調書を取った刑事さんは、オラにこう言ってくれた。

『どんな理由があるにせよ、彼のしたことは簡単に許されることではありません。
……でも、彼は罪を償おうとしている。そこに、大きな意味があります。彼は、きっとやり直せますよ―――』

思わず、頭を下げた。

四郎さんが起こした事件は、こうして幕を閉じる。
しかし、これもまた、今の社会を表すものなのかもしれない。

世の中、うまくいくことなんて少ない。辛い毎日が続いたり、連続で不幸が訪れることなんてしょっちゅうだ。
それに耐え続けるのは、誰であっても顔を伏せてしまうこともあるだろう。時には耐えきらず、どうすればいいのか分からなくなるだろう。

……だからこそ、笑うんだ。不幸なんて吹き飛ばして、笑うんだ。
そうすれば、きっと何かが生まれるはずだから。それを見た人も、きっと幸せになるはずだから。

だからオラは、四郎さんを待とうと思う。そして彼が、全てを償った時、笑顔で出迎える。
それが、オラが四郎さんに出来る、友人として出来る、最善のことだと思うから……

鬼の目にも涙、か……

コチラからご覧ください↓




①【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。

②【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。

③【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。

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⑩【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。

11【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。

最終回12【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。