数日後、オラはとある公園にいた。
空はあいにくの雨。視界に斜線を入れるかのように、雨が降り続いている。
当然、公園に他の人はいない。
掻き消されているのか、降りしきる雨の音以外、何も聞こえなかった。

その中で、傘をさしてベンチに座る。
実のところ、オラは雨の日が嫌いではない。
雨粒を受けた木々、花々は天の恵みを受け生き生きと存在感を示す。濡れたアスファルトからは、普段とは違う、そう、雨の匂いがしていた。
この風景を見ていると、どこか落ち着いて来る。
天の恵み……なるほど、その言葉も納得できる。

「……しんのすけ」

ふと、雨音に紛れるように、オラの名前を呼ぶ声が聞こえた。
その声の主は、誰だか分かっていた。なぜなら、オラが呼んだからだ。

オラはその人物の方を向く。

「……やあ、待ってたよ、風間くん……」

「………」

風間くんは、何も言わずに立っていた。
スーツ姿にビジネスバッグ、黒いコウモリ傘をさしている。
その表情は、薄暗く空のかかる、雨雲のようだった。

「……とにかく、座りなよ」

「……ああ」

ベンチに座るよう促すと、濡れたベンチを気にすることもなく、風間くんは座った。
そしてオラ達は、しばらくの間、会話を忘れて水に潤う情景を眺めていた。




974 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/25(月)22:20:12 ID:E7AhteP8V
少し時間が経った頃、風間くんの方を見る。
どこか落ち着かない様子で、表情を伏せていた。
……それも、無理もないのかもしれない。

「……いきなり呼び出したりして、ごめん」

「……別にいいよ。それよりしんのすけ。用件、なんだよ」

風間くんは、目の前の景色を見つめたまま、急かすように訊ねる。だがその口調から、おそらくは、用件など分かっているようだった。

「ああ……。風間くん、この公園に、見覚えあるよね?」

「……」

「こんなところに呼び出したのは、“あの日”のことを聞こうと思ったんだ……」

「……まあ、そうだろうって思ったよ。まったく、誰に聞いたんだか。よりによってここに呼び出すなんてな。
――しんのすけ、ちょっと冗談が過ぎるぞ」

風間くんは、ようやくオラの方を向いた。
一つは、オラの用件が予想通りだったことから、開き直ったのかもしれない。

……ここは、ぼーちゃんが、ひまわりと風間くんを見た公園だった。

975 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/25(月)23:29:00 ID:E7AhteP8V
「……聞くも何も、普通の話だよ。付き合っていた彼女から、僕がフラれた。
――ただ、それだけのことさ。聞いても、つまらない話だよ」

風間くんは、淡々と話す。
それは間違いない。だが、それだけじゃない。風間くんは、話を早く終わらせようとしている。
つまりは、オラに話しにくい何かがあるということ。

「……風間くん、友人としてお願いするよ。あの日、何があったの?」

「……」

「凄く言い辛いことかもしれない。だけど、話して欲しい。
それはきっと、オラが知らなきゃいけない、とても重要なことだと思うから……頼む……」

「………」

風間くんは、オラの目を見ていた。何かを探るように、確かめるように。
そんな彼を、オラは見続けた。視線を逸らさず、ぶつけた。

「……はあ。そう言えば、お前も強情だったな、しんのすけ……」

大きく息を吐いた風間くんは、諦めたように呟く。そして視線を前に戻し、目を細めて話し出した。

「……もう、聞いてるかもしれないけど。僕な、海外の支社を任せられることになったんだよ」

「……ああ、聞いたよ」

「だろうな。――ホント、大出世だよ。言わば、僕は支社長になれるんだ。
これまで頑張ってきた苦労が実ったんだ。こんなに嬉しいことはない。僕は、意気揚々と彼女――ひまわりちゃんに報告したんだ」

「………」

「そしたらね、彼女言ったんだ。“私は、どうなるの?”って。僕は、すぐに彼女が言わんとすることが分かったよ。
……彼女は、本気だったんだ。本気で僕と、一生添い遂げるつもりだったんだ。だから僕が海外に行くことに対して、自分はどうなるのかって聞いてきたんだよ。
本当に、嬉しかったな。海外の支社を任され、好きな女性に本気で想われて……人生で、最高の瞬間だった」

風間くんは、少し照れるように話していた。……でも、その顔は長くは続かなかった。すぐに視線を落とし、呟くように話した。

「――しんのすけ、これから先は、怒らずに聞いてほしい」

「……分かった」

オラの返事を待って、風間くんは切り出す。力強く。はっきりと。

「……彼女の想いに触れて、僕は決めたんだよ。一生、彼女を大切にしよう。添い遂げようって。
――だから僕は、彼女にプロポーズしたんだ。――結婚を、申し込んだんだよ」

「………」

雨は、更に激しさを増していた。




977 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/25(月)23:39:41 ID:E7AhteP8V
「そしたらさ、見事にフラれたよ。僕の思い違いだったみたいだ。……まったく。カッコ悪い話だよな、ホント……」

彼はそう話しながら、苦笑いを浮かべていた。

だけど、オラは気になっていた。
ひまわりは、なぜ風間くんとの別れを選んだのだろうか……。
彼女の想いは、オラが見ても分かるくらい本気だった。にも関わらず、彼女は別れを選んだ。

……その理由は、容易に想像出来た。
だからこそオラは、両手を握り締めた。握る拳は震える。我慢するのに、必死だった。

「……風間くん。ひまわりは、なんて言ってた?」

「……」

「……教えてくれ。風間くん……」

風間くんは、少し躊躇していたようだ。それでも、話してくれた。

「……彼女が言ったのは……」

「………」

「―――――、―――――」

「………」

風間くんの言葉は、囁くように、静かにオラの耳に届いた。
雨音は激しく響く。だけど彼の声は、それを潜り抜け、やけにはっきりと聞こえた。

(………クソ……)

思わず、そう思った。
それは、オラ自身に対する言葉だった。

978 :名無しさん@おーぷん:2014/08/25(月)23:40:31 ID:uWETkivK8
風間・・・君・・・

980 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/25(月)23:46:51 ID:E7AhteP8V
風間くんと別れ、オラは家路につく。
雨は一段と強く降り注いでいたが、オラには傘をさす気力すらなかった。

(……ひまわり……)

ずぶ濡れになりながら、雨の中に彼女の姿を思い浮かべる。
大切な家族。大切な妹。
いつも明るく、笑顔を向ける彼女。
……オラの、たった一人の、家族……

「………」

無言で、玄関の扉を開ける。

「――おかえりー」

ドアの音を聞いたのか、ひまわりは奥から出て来た。

「うわっ!ずぶ濡れじゃない!お兄ちゃん、傘持っていかなかったの!?」

雨に濡れたオラに、ひまわりは驚いていた。
しかしオラの耳は、彼女の言葉を素通りさせる。

ひまわりの顔を見た瞬間、風間くんの言葉が脳裏に甦っていた。

―――彼女、泣きながら言ってたよ。“お兄ちゃんを一人には出来ない”って―――

「……ひまわり……」

無意識に、口が動いた。

「うん?なぁに?」

一度目を閉じ、頭の中の想いを整理する。
ひまわりの言葉、顔……そして………

「――この家を、出ていけ………」

21 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/26(火)14:33:41 ID:A44QKpe2U
「……え?お、お兄ちゃん……?」

「聞こえなかったのか?――この家を、出るんだ」

「……!」

ひまわりは顔を青くし、激しく動揺しているようだった。
それも当たり前だろう。
ひまわりとはケンカをすることはあっても、ここまでの言葉を口にしたことはない。
にも関わらず、ケンカらしいケンカもしていない今、唐突にそう言われて混乱しているのだろう。
なぜ、オラがそんなことを言ったのか分からない。
なぜ、そう言われたのか分からない。
なぜ、なぜ、なぜ、なぜ……きっと彼女の頭のなかは、そればかりが漂っているだろう。

気が付けば、彼女は涙を流していた。

「……ひまわり……今日、風間くんと会ったよ」

「……!」

「プロポーズ、断ったそうじゃないか……なぜだ?」

「……だ、だって……それは……」

「風間くんが、嫌になったのか?」

「そ、そんなんじゃないよ!……そんなんじゃ、ないけど……」

(……即答、か……)

これで、確信した。
それと同時に、言い知れぬ怒りのような思いが沸々と生まれていた。




22 :◆YAe/qNQv0cvW:2014/08/26(火)14:34:07 ID:A44QKpe2U
「……悪いな。全部教えてもらったよ。風間くん、なかなか言わなかったけどな。
――ひまわり、オラを気遣って断ったんだろ?」

「――ッ!そ、それは……」

「――ふざけんなよッ!!!」

「――ッ!」

ひまわりは、体を震わせた。

「それでオラを気遣ったつもりか!?オラのためになると思ったのか!?
――オラを理由に使っただけじゃないか!!」

「ち、違う!」

ひまわりは、慌てて声を出す。

「――だって!私が風間くんと一緒に行ったら、お兄ちゃんが一人になるじゃない!
いつも私の横にいてくれて、励ましてくれていたお兄ちゃんがだよ!?
――そんなの……出来るわけないじゃない!」

「それがどうしたんだよ!勝手に同情してんじゃねえよ!!」

「同情なんかじゃない!たった一人の家族だよ!?
お父さんとお母さんが死んだときも!私が歩けなくなった時も!そして今も!
なんでお兄ちゃんばっかり、全部背負うの!?なんでお兄ちゃんだけが、我慢するの!?
――お兄ちゃんばっかり辛い思いをして……そんなの、絶対嫌ッッ!!」

「……」

「……」

……沈黙が、流れる。
外からの雨の音は、止むことはない。
ザーザー……ザーザー……涙を流すように、降り続いていた。

鬼の目にも涙、か……

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①【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。

②【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。

③【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。

④【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。

⑤【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。

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⑧【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。

⑨【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。

⑩【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。

最終回12【涙腺崩壊】クレヨンしんちゃん作者事故死から7年…今明かされた22年後の物語に涙が止まらない。※日本中が涙しました。